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終 章
いつもと同じ道
周りに緑の草原が広がる一本道を、朱里と小夜は歩いていた。
秋にしては陽射しがぽかぽか暖かい。
「今頃あいつ、どこにいるかな」
コートを肩にかけて腕を頭の後ろで組みながら、朱里が空を見上げて尋ねる。
「あいつ?」
「アールだよ。あいつ旅の目的決まったのかな」
朱里と同じように空を見上げながら、小夜は小さく微笑んだ。
「きっと、大丈夫ですよ」
今では普通に歩いている小夜だが、この状態に戻るまでにおよそ一週間を要していた。
その間相棒の朱里が付きっきりなのは分かるのだが、アールまでもがその側を離れようとしなかったのは不思議な光景である。
本人いわく、謝罪と責任をとるためらしいが、朱里はいつまたアールが暴走(?)するか気が気でなかった。
あるとき朱里が買い出しに行っている際、アールが"紫音"の話を持ち出した。
これまではまったく出てこなかった話題である。
あえて小夜もアールも避けていたのかもしれないが…。
『小夜様、紫音は僕に似てきたんだったよね。どんな子になってた?』
『紫音さんは、すごく優しくて誠実で、側にいると温かい気持ちになれました…。いつも私のことを気遣ってくださって…』
一緒に笑い合った短い日々のことを思い出すと、胸の奥がきゅっと締まる感じがした。
戻らない日々が今はひどく切ない。
『…いい子だったんだね。紫音は小さい頃から僕の後をついて回る子でね、僕の話はなんでもすごく楽しそうに聞いてくれてた。年が9歳も離れてるから僕も可愛くって仕方なくて…。…もう一度、せめて一目でも会いたかったな…』
淋しそうに微笑むアールに、小夜はただ小さくうなずくことしかできなかった。
そして別れの日。
『じゃあここでお別れだね、小夜様』
『…はい』
旅支度を整えて外に出た三人は短い言葉を交わす。
『いろいろ迷惑かけてごめんね』
『まったくだぜ。どんだけこっちが大変だったか』
アールの言葉に文句を返す朱里の横に立っていた小夜が、ふるふると首を横に振って身を乗り出した。
『アールとたくさんお話できて嬉しかったです!会えたこと、私は感謝します』
信じられないというような顔を浮かべる朱里の前で、アールが一瞬驚いて目を丸くした後にっこりと微笑む。
『僕も小夜様にまた会えたこと、感謝するよ』
心底嬉しそうな顔で、アールはそのまま小夜の白い額にそっと口付けを落とした。
『それじゃあ、元気でね』
笑顔で手を振って去るアールに、小夜も手を振り返す。
側の朱里がそのときどんな顔をしていたのかは、言うまでもないだろう。