『――初めまして』
一番最初に顔を合わせたとき、その女の子は大きな目をぱちくりさせて僕を見上げていた。
…この子が僕の婚約者か。
まだ小さいなあ、紫音と同い年くらいだろう。
僕はこのとき13歳で、小夜様は5歳だった。
何が何なのかよく分からず、じっと僕を見てくる小夜様に、僕は用意していたものを差し出した。
『はい。これプレゼントだよ。小夜様は花がとても好きだって聞いたから』
目の前に差し出された花束を、小夜様は受け取ってもいいのか尋ねるように僕のほうにちらちらと視線をよこした。
それに答えるように僕は、
『もらってくれたら嬉しいな』
そう言うと小夜様は目をきらきらさせて、そっと花束を手に取り、大事そうに胸に抱いてくれた。
アーモンド型の黒目がちな瞳が、僕を見て嬉しそうに微笑む。
その可愛らしい笑顔につられて、僕の頬もゆるんだ。
その日は会話らしい会話もできなかったけれど、城への帰り道僕は妙に嬉しい気持ちでいっぱいだった。
それから小夜様に会いに行くたびに、僕はどんどん小夜様と仲良くなっていった。
花束のプレゼントはいつも小夜様の笑顔を見せてくれた。
『また花束、持ってくるからね』
帰り際のお決まりの台詞にも小夜様は心から喜んでくれて、時にはぎゅうっと僕の腕に抱きついて、お礼の言葉をくれた。
別れてから振り返ると、遠くの城門のところで小夜様が一生懸命こっちに手を振ってくれていた。
小夜様はとても可愛らしい女の子で、僕の婚約者であることはまさに、神様が与えてくださった恵みだと思った。
そして僕を見送る小夜様の側には、決まってお后様が立っていた。
『アールはいつもどんなことをして遊んでるんですか?』
ある寒い冬の日、ストーブで暖かくなった部屋の中、小夜様がふと僕に尋ねた。
この日は僕が小夜様に本を読んであげていた。
小夜様はちょこんと僕の膝の上に座ったままこちらを見上げている。
『そうだなあ…、部屋で本を読んだり、弟の紫音と遊んだりしているよ』
『弟さんですか!お会いしてみたいです。みんなで遊んだら、きっともっと楽しいですねっ』
『うん、弟も小夜様に会いたがっていたよ。小夜様はいつも何をして遊んでいるの?お母さんと遊んでるのかな?』
そう尋ねると急に小夜様はうつむいて、
『…よく分からないです…』
曖昧な返事をする小夜様の表情は、どこか少し寂しげだった。
こういうことはそれからも何度かあった。
だけど僕にはその理由なんて全然分からなかったし、第一幼い小夜様に何か悩みがあるとも思えなかった。
裕福な環境に優しそうな両親、それらがすべて揃っていてこれ以上不満なんてないだろう。
窓の向こうに白い雪がちらつき始めた頃、僕はその異変に気づくことになった。
『…あれ?小夜様、それはどうしたの?』
部屋の中には、僕と小夜様、それから僕らを見守るようにお后様が椅子に座ってこちらを眺めていた。
小夜様はきょとんと僕の質問に首を傾げた。
僕は小夜様の手をとり、その両手の平を上に向けた。
『どうしたの、これ!?』
その小さな手の平は赤く爛れており、火傷したときのようなひどい状態になっていた。僕にはそれが凍傷だとすぐに分かった。
『いつからこんなになってたの!?早く治療しないと…』