一方、暗い闇に彩られた夜道を、一人の少年が叫びながら走っていた。
「小夜―っ!!」
もうかれこれ半刻はこの状態が続いている。
タオルを取って部屋に戻った朱里は、ベッドで眠っていたはずの小夜がいないことに驚き、それからもうずっと夜中の街を走り回っているのだった。
深夜を回った街は、しんと静まり返っている。
道に一人でぽつんと立っている朱里は、どうしようもない不安に襲われる。
俺はまた一人になったのか?昔みたいにまた、一人に…?
体の横に置いた拳に力を込めて、朱里は誰もいない夜の街にぽつりと呟いた。
「どこ…どこ行っちゃったんだよ、あいつ…」
答えてくれる者は、誰もどこにもいなかった。
腕の中で無防備に眠る少女に愛おしげな眼差しを向けて、彼は宿へ続く道を歩いていく。
少女の長い髪が一瞬吹いていった風に揺れた。
彼の頭上には満天の星空がどこまでも続いている。しかし星たちのわずかな光は地上には届かない。
少女を抱いた彼の姿は、そのまま闇に溶け込んでいった。