夜が明け、朝が来た。
宿屋の外には朱里、小夜を初めとする七人が立っている。
朱里と小夜はほかの五人と向き合う形で、それぞれと別れの挨拶を交わしていた。
「小夜姉、元気でね」
「元気でね」
「でねっ」
三兄弟は悲しそうな顔で小夜に声をかける。
小夜はにっこり笑って、
「皆さんもお元気で。風邪を引かないように気をつけてくださいね」
やはりどこか寂しそうに答えていた。
すべての挨拶が終わると朱里が「よし」と荷物を肩にかける。
「じゃあ、またな」
軽く手を上げると、師匠が「おう」と返事をした。
朱里は一瞬の間を置いてから、
「行ってきます」
はっきりそう口に出して、師匠に背を向け歩き出した。
小夜は慌ててその後を追う。
後ろで「いってらっしゃい」と呟くジライの声が聞こえた。
小夜は思う。
"行ってきます"があるということは、必ず"ただいま"があるということだ。
道を歩きながら、ずいぶん後ろが静かだなと朱里が小夜を振り返ると、彼女は紙切れのようなものを見つめていた。
「なんだそれ?」
ひょいっと手元をのぞき込む。
それは写真のようだった。よくよく見ると見慣れたような人物が写っている。
それが誰なのか気づいたとき、朱里は青ざめた顔でその写真を小夜の手から抜き取った。
「あっ。何するんですか朱里さんっ」
「お前、これ誰からもらった…?」
わなわなと震える朱里に小夜が答える。
「ジライさんがお別れの記念にって」
それを聞いて朱里はビリビリと写真を破って、近くにあったくず入れに投げ込んだ。
「ああっ!!せっかく頂いたのにっ…!!」
くず入れに駆け寄ろうとした小夜の肩を、朱里ががっしと掴んだ。
ずるずると小夜を引き離しながら、
「いいか!!今の写真のことは忘れろ!!あれは目の錯覚だ!」
「ですが、確かにピンク色のドレスを着た可愛らしい小さな朱里さんが…」
「頼む、もうそれ以上言わないでくれ……」
心底泣きそうな顔をする朱里を見て、小夜は思わずうなずいた。
朱里は小さく息をついて歩き出す。
町をいよいよ出ようかというところで、朱里が立ち止まって今来た道を振り返った。
小夜はそれを、きっと師匠たちと離れるのが名残惜しいのだろうと解釈したが、次の一言でその考えは覆された。
「しっかし、大人ってやっぱずるいよな」
そう呟いて、彼は懐からある物を取り出した。