「えへへへ、家族って素敵ですっ」
「お前なー…」
朱里が文句を言おうとして横を向くと、小夜は微笑んで朱里を見ていた。
その視線にドキッとして朱里は目を逸らす。
小夜の肩が触れている右腕が、熱を持ったかのようにじんじんと熱かった。
小夜の声が間近から聞こえた。
「今日、洞窟の中で夢を見たんです」
「…夢?」
訊き返す朱里に小夜は小さくうなずいてみせた。
「真っ暗な闇の中で私が一人で立っていました。その中に光る細い小川を見つけて、私はそれに沿って歩いていたんです。でもその小川はどんどん細くなってしまって、最後にはなくなってしまいました。すごく怖かったです。たった一人で、何も見えない闇の中に取り残されて……。でもそのとき光をまとった人が現れたんです」
それにぷっと苦笑しながら朱里が口を挟んだ。
「神様か?」
女はこういう話が好きだな、と彼は思う。
小夜も例外ではないようだと笑うと、彼女は首を振って答えた。
「いいえ、その人は神様じゃありませんでしたよ。私に微笑みかけてくださった人は、朱里さんだったんです」
思いがけないところに自分の名前が出されて、朱里は目を丸くして小夜を見た。
「俺?なんで?」
それに自信いっぱいに小夜が答える。
「だって、朱里さんは私の大好きな人ですから」
言って小夜は少し恥ずかしそうに手で頬を押さえた。
そのあどけない仕草に、朱里の口元が緩む。
小夜の顔を眺めていると、自分の中から温かい気持ちが湧いてくるのが分かった。
それは決して不快なものではなく、むしろ心地いい。
自分の中にもこんな感情があったのか、と思い出させてくれる。
朱里はこの感情を表現するのにぴったりな言葉を知っていた。
「馬っ鹿だなー、お前は」
照れたように笑う小夜の頭をそっと撫でながら、朱里は優しく微笑む。
こんなにも可愛く思える人を、朱里はほかに知らない。
(なんて愛しいんだろう……)
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