洞窟での一件を思い出してしまったからなのか、どうにも朱里は落ち着かない。
押し黙っていると小夜のほうから話しかけてきた。
「明日には皆さんとお別れなんですね。なんだか寂しいです」
うつむいている小夜の顔は、光が当たっていないせいか見ることができない。
きっと悲しそうな顔してんだろうな、と朱里は思った。
「お前三兄弟にすげえなつかれてたもんな」
笑って答える朱里に、小夜はうつむいたまま尋ねる。
「朱里さんは寂しくないんですか?」
「んー、どうだろうな。もう慣れてるしな、こういうの」
軽く言った朱里の顔を小夜はパッと見上げる。
月の光に照らされた小夜は、泣きそうな顔をしていた。
「師匠さんたちは家族ではないんですか?朱里さんにとって、かけがえのない大切な家族なんじゃないんですか?」
小夜は思い出していた。
朱里の昔話をしてくれた師匠の顔。
それは紛れもない家族の顔だったのだ。
「そうだな、確かに再会したときはそれが当たり前のように出迎えてくれるし、生活の仕方もあれこれ口突っ込んでくる。たまにそれが邪魔に思えたりするときもあるけど……これってきっと、家族って言うんだろうな」
朱里はふっ、と小さく微笑んだ。
小夜には分かる。
これは家族の顔なのだと。
そう考えると小夜は急に寂しくなった。
思えば、自分はどこにも属していない。
「あの、朱里さん…」
小夜はうかがうように上目遣いで朱里を見た。
朱里が、なんだ?というように顔を向ける。
「もしよろしければ、私もぜひ家族の一員にならせてもらえないでしょうか?」
それを聞いて朱里は目をぱちぱちさせた。
小夜は不安そうにじっとこちらを見上げてくる。
その顔があまりにも真剣だったので、朱里は軽く吹き出してしまった。
「お前、変なこと言うなあ。もうとっくになってんじゃん。俺の家族の一員に」
驚く小夜の頭をぐりぐり撫でながら朱里は続ける。
「家族ってのは大きな家だ。どんなときでも帰ってこれるし、そのときはもちろん温かく迎えられる。小夜、お前が帰ってくる家は俺だけだろ?だったらもう家族の一員だよ」
小夜の顔に嬉しそうな笑みが広がった。
朱里はぐしゃぐしゃになってしまった小夜の髪を指で梳かしてやると立ち上がった。
「さ、明日に向けて今日はもう寝るぞ」
床に自分用のシーツを敷き始める。
もう慣れたもので、小夜が訪ねてくる夜は常にこうだ。
今では床で寝ても体の節々が痛くなることは滅多にない。
着々と用意をする朱里に小夜が声をかけた。
「朱里さん、家族なら同じベッドで一緒に寝ましょう。それが家族でしょう?」
慌てて訂正しようとする朱里の手を引いて、小夜は彼をベッドに寝かせ自分はその右隣に横になった。
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