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終 章
終 幕
四人が宿に戻ると、子供たちが涙目で出迎えてくれた。
小夜はそれぞれの頭を撫でながら「ただいま帰りました」と微笑んだ。
昼も過ぎ、夕食の時間がやってくる。
「どうせ今日もお前ら、小夜の隣に座んだろ」
ふてくされ気味に朱里が三兄弟に言った。
だが長男トムが遠慮がちに、
「今日はここに座っていいよ」
と小夜の隣の席を示したので、朱里は目を丸くしてしまった。
とりあえず座りながらトムの様子をうかがう。
「なんだ?どしたんだ、お前。熱でもあんのかよ」
尋ねるとトムはふんっと鼻を鳴らした。
「兄ちゃんのためじゃないよ。小夜姉のために席譲ったんだからね!」
言い終えるとそのまま食事に集中し始める。
わけが分からず首をかしげていると、ジライが呟いた。
「トムは恋人同士の邪魔をしないでやるって言ってるんだよ…」
"恋人"という言葉に顔を赤くする朱里に、小夜が微笑みかける。
するとますます顔が火照ってくるのを、朱里は感じた。
慌てて皿を取り、がっつくように食べ始める。
目の端に映る師匠の顔はニヤニヤ笑っていた。
食事が終わると朱里はこれからの自分たちの行く先の旨を、師匠たちに説明し始めた。
「明日にはこの町を出ようと思う。もう用はないしな」
横にいる小夜が申し訳なさそうな顔をしたので朱里は言い直した。
「別に錬金術の書に未練があるわけじゃねえぞ。あれは小夜のせいでも、誰のせいでもない。それに…」
大きく伸びをしながら朱里は天井を見つめた。
「なんかさ、妙にすっきりしてるんだよな。全然悔しくねえんだ」
晴れ晴れした表情で朱里は言う。
それを見て師匠はにっこり笑った。
「そりゃあ良かったな」
部屋に戻ると朱里は電気を点けることなくベッドの上に寝っ転がった。
側の窓からは月がのぞいていて、その光が横になった朱里を照らしている。
気持ちのいい風が入ってきて彼の頬を撫でていった。
今日もずいぶんいろんなことがあった気がする。
頭の後ろで腕を組んで朱里は目を閉じた。
思い出せるのは、ひんやりとした小夜の体温。
半袖であの洞窟の中にいるのは寒かったことだろう。思えば小夜を抱き寄せたとき、少し震えていた気がする。
その場面を思い出そうとしたとき、どこかでコンコンと音がした。
それがドアをノックする音だと分かると、朱里は起き上がって扉を開けた。
廊下の灯りの下には、恥ずかしそうにこちらを見上げる小夜の姿があった。今夜は枕も何も持っていない。
「あれ、お前あいつらと一緒に寝るんじゃないのか?」
「それが…三人とも先に寝てしまって、私の寝るところがなくて…」
困った様子の小夜を部屋に入れて、朱里は扉を閉めた。
そのままとりあえずベッドに座るよう促す。
朱里自身は小夜の隣に腰を下ろした。