まだ夢は続いている。
ぼんやり光る水流を追って、もうどのくらい歩いただろうか。
自分は何も履かず裸足のままのはずだったが、不思議と足の裏に痛みはなかった。
地面は冷たくざらざらとしていて、自分が幼少時代を過ごしたあの部屋の床とよく似ていた。
水の流れに沿ってさらに進んでいくと、心なしか流れが細くなっているのに気づいた。
初めは手首ぐらいの幅だったのが、今では指を二本合わせたくらいになっている。
だが光っているので見失うことはない。
自分はひたすら歩き続ける。
暗闇の中で自分の息遣いだけが鮮明に聞こえた。
「小夜―っ、どこだー」
叫んでも返ってくるのは壁に反響した自分の声ばかり。
朱里は自分がいったいどれくらい走り続けているのか分からなくなった。
分かるのは心持ち道が広くなってきたことだけだ。
「どこまで行ったんだよ、あいつ」
前にも後ろにも人の気配はない。師匠たちとは相当距離が開いてしまったようだ。
ふと朱里は立ち止まった。
周りは真っ暗で、ここには自分しかいない。
一瞬恐怖の文字が彼の脳裏をかすめた。
「なんだ、俺…。こんなの慣れっこのはずなのに」
その気持ちを払い落とそうとするように頭を振る。
何かが彼の頭をよぎった。
(あれ…。昔にもこんなのなかったっけ。そう、確か子供の頃…)
彼の記憶は一気にフィードバックしていく。
その日はどんよりと曇っていて、朝から暗かった。
俺は出店に出ていたリンゴとバナナ、それからパンを店主の隙を見て両手にかかえて走り出した。
これで数日はもつだろうと思って、内心喜んだ。
その日は建物と建物の間の、人からは死角になるだろう暗がりを見つけてそこに潜り込んだ。
大事にかかえていた果物を手で磨いてぎゅうっと抱く。
そうすると安心できた。
これでまだ自分は生きていけるのだと感じた。
昼になると空はますます暗くなった。
暗がりから出ようとした俺は、大人に見つかった。
大人たちは俺が果物をかかえているのを見ると、とたんに表情を変えそれが当然のように暴力を振るってきた。
頭にも、腹にも容赦なく蹴りが飛んでくる。俺はただ地面に丸まってその痛みに耐えた。
大人たちは声も悲鳴も漏らさない俺を、面白くなさそうに見下ろすと、果物やパンを取り上げて去っていった。
暗がりの中には地面に倒れ伏した俺だけが残され、俺の命でもある食べ物は呆気なく消えていった。
起き上がる体力も気力もない。この暗闇の中で自分は独りぼっちだ。
暗がりからのぞく通りは、楽しげに歩く人々の笑い声で満たされている。
自分は決してあそこには入れないのだ、と俺は痛いほどに感じた。
このとき初めて、暗闇に一人でいることが怖くなった。
このままここで死んでも誰一人として気づかないんじゃないかと、俺は思った。
それは怖いことだ。
とても、とても怖いことだ。
そんなとき、師匠が現れたのだ。
師匠は大きな手を俺に差し出してくれた。