夢を見ていた。
自分は城の中にいて、いつものように自室で窓の外を眺めていた。
外の景色もいつものように、太陽の光で光り輝いている。
城の外に広がる城下町を眺めるのが、自分は大好きなのだ。
ふと、それまでは雲ひとつなかった青空が急に暗くなり始めた。厚い灰色の雲がどんどん立ち込めてくる。
それはまるで早送りをしているかのように、あっという間に空を覆いつくし、太陽の光を遮ってしまった。
景色は暗闇に包まれた。
今まで見えていた家々の屋根の色も、自分がいた部屋の風景も、すべてが失われる。
自分の両手さえ見えず、目を閉じているのか開いているのかも分からなくなってしまった。
自分は声を上げて周囲を見回した。
それは助けを求める叫びだったり、父を呼ぶ声だったりする。
突然の孤独に膝をかかえてしゃがみ込んだ自分は、足元に流れるわずかな水流を見つけた。
その水は不思議なことに何も見えない闇の中にあって、かすかに光を発していた。
目を細めると、その流れがずっと遠くのほうまで続いていることに気がついた。
まるで糸のようだ。
思いながら、恐れることもなく自分はゆっくりと歩き出していた。
洞窟の中は炎天下な外とは違い、ひんやりとしていて汗をかいた体には少し肌寒いくらいだった。
「暗ぇなあ。奥のほうなんて何も見えねえぞ」
上着を持ってくるべきだったと後悔しながら朱里が呟く。
入り口付近はまだしも、奥にはまったく光源がない。
道は今のところ一本だけなので問題はないが、もしこんな暗闇の中で迷ったらと考えるとさらに寒くなる。
身震いする朱里を横目に、師匠がガハハハと笑った。
「情けねえなあ。それでもトレジャーハンターか?これくれぇ暗いほうが雰囲気も出るってもんだ!」
ばしっと朱里の背中を手の平で叩く。
「別に雰囲気とか必要ねえだろ。それより問題はあいつだよ。こんな暗いとこにいたら、絶対あいつ怖がって動けねえよ。…ったく、暗闇苦手なくせに」
朱里は簡単にその場面を思い浮かべることができた。
きっと今頃一人で地面にうずくまって、ピイピイ泣いていることだろう。
(朱里さん助けてください〜とか言ってさ)
小夜は暗闇を必要以上に怖がる。
宿屋でも夜になると時折、枕を抱えて朱里の部屋を訪ねてくる。
理由を訊くといつもこう答えるのだ。
暗い中に一人でいると落ち着かないんです。
今も一人で闇の中で震えている。そう思うとなんとなく落ち着かない気分になってきた。
「あー、もう」
朱里はたまらず走り出す。
後ろで師匠の呼び止める声がしたが、かまわず足を速めた。