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第5章
実 行
「なんであいつ、自分だけで洞窟に…。宝がほしかったのかな」
町外れに急ぎながら朱里が呟いた。
その後ろに続く師匠はいちおう首をかしげてみせる。その隣のジライは無反応だ。
足を引っ張ることもあって子供たちは、宿での留守番を任された。
もちろん彼らはそれにぎゃあぎゃあと反論したが、物凄い形相の朱里に一瞥され、それ以上何も言えなくなってしまったのだった。
結局洞窟には朱里、師匠、ジライの三人が向かっている。
「なあ、師匠」
朱里が前を見つめたまま口を開いた。
「小夜が洞窟に行ったって知ってるってことは、手紙かなんかがあったんだろ?」
師匠は戸惑いの色を微塵も見せずに答えた。
「ああ。小夜ちゃんの部屋の机に置いてあったのを、三兄弟が持ってきたんだよ。確かに、洞窟に行くって書いてあったぞ」
「それだけか?」
え、と師匠は前を走る朱里の背中を見た。
質問の意味が分かりかねたのだ。
それどころか、師匠は一瞬自分たちの作戦がばれてしまったのかと、どぎまぎさせられた。
朱里は言いにくそうに、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。
「あのさ…、ほかに俺のこととか、ていうか…文句とか愚痴とか書いてなかった?俺に対しての」
それを聞いて師匠は安堵の息を漏らした。
「あのなー…」
こんなときに何を、と言いかけたところで突然、朱里の顔がこちらを振り返った。
彼は危機迫ったような顔で、
「やっぱり書いてあったのか。何て書かれてたんだよ」
師匠はため息をつく。
小夜の悩みは思い過ごしだということが、再度確認できた。
朱里の一番は今もひたすら小夜だけなのだ。
頭の中に泣きじゃくる小夜の姿が浮かんだ。
「なあ、師匠!」
「朱里さんの分からず屋!!頑固者!!もっと素直になってください!!て書いてあったぞ」
その言葉を朱里は真に受け、それらの意味を吟味し始めた。
「…分からず屋?頑固者?俺あいつに何か言ったっけ…?う〜ん、分からん」
走りながらも悩み始める朱里を横目に、ジライがぼそっと呟く。
「今のは君の意見だろう…」
師匠はニヤッと笑って、
「これくらいは言ってやらんと。小夜ちゃんのかたきだからな」
そうこうしているうちに目的地が見えてきた。