洞窟に到着し、小夜は自分がいるべき場所に座り込んだ。それっきり師匠たちは去っていった。
本当に一人になったのだ。
周りは恐ろしく静かで、じっとしていると静寂に呑み込まれそうな気さえする。
小夜は無意識のうちに胸元のネックレスをぎゅっと握った。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
何がいけなかったんだろう。
一体なぜ嫌われてしまったのか。
分かっていることはただ一つ。
自分はもう、彼にとって何でもない存在なのだという事実だけだ。
それならばなぜこんな賭けに乗ってしまったのだろう。
死にたがっている?
実際自分にはもう彼以外何も残っていない。
自ら国を捨てて彼についてきたのだから。
彼にいらないと言われたら、自分は。
震える肩を両腕で抱いて、小夜はきつく目を閉じた。
これ以上考えてはいけないのだ、というように頭を振る。
すべては朱里が決めることなのだ。自分はここで大人しくしているしかない。
気を抜くと、眠気が小夜を襲ってきた。
小夜はそれに逆らうことなく、ゆっくりと深い闇の中へ落ちていった。
「ねえ…まさかとは思うけど、死ぬって本当かい?」
宿への帰り道、ジライがぼそっと眠たげな声で尋ねた。もっとも彼の声の調子は常にこんな感じだ。
「あぁ?嘘だとでも言うのかよ。あんな場面で言った言葉が」
師匠は眉をひそめて答えた。
ジライは前を向いたまま、
「嘘だね。悪いけど君の性格は把握してるからね…。そんな簡単に人を死なせたりしない。特にあんないい子はね…。なにか策があるんだろう?とりあえず僕は傍観者に回らせてもらうよ…」
すたすたと前を歩いていくジライの後ろ姿を眺めながら、師匠は苦笑して呟いた。
「食えねえ奴だな、ほんと」
ゆっくりと太陽が姿を現し始める。
新しい一日が、今まさに始まろうとしていた。