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第4章
作 戦
まだ日も昇らない頃、小夜は呼ばれて目を覚ました。
側には師匠が立っていて、こちらを見下ろしている。彼はすでに身支度も済ませているようだった。
小夜は眠い頭を起こしながら辺りを見回す。
「あれ…おはようございます…。師匠さんは朝がずいぶんお早いんですね」
師匠は苦笑しながら、
「今朝は特別さ。小夜ちゃんにはこんな早くから悪いが、ちょっくら連れて行きたいとこがあるんでね。準備してくれ」
言うが早いか、着替えを渡して部屋を出ていってしまった。
小夜はとりあえず言われたように服を着替え、身の回りを整えると部屋を出る。
廊下には師匠とジライが待っていた。
「じゃ、行くか」
歩き出す二人に、戸惑いながらも小夜はついていく。
三人は宿を出て、まだほの暗い道を進んだ。
「あ、あの…どこへ行くんでしょうか?ほかの皆さんは…」
大の男に連れられて早足ぎみに歩きながら小夜は尋ねた。
起きたばかりだというのに、彼女の頭は不思議と冴え渡っている。
戸惑う小夜を安心させるようににっこり笑って師匠は答えた。
「ちょっとばかし町外れの洞窟にね。小夜ちゃん、朱里の奴を試してやろうぜ。小夜ちゃんを泣かせるなんて悪ぃ奴だからな。これを機に、少しは素直になるだろう」
小夜は意味が分からず首をかしげる。
師匠が続けた。
「なぁに、簡単なことだよ。あの洞窟にゃあ宝、それも錬金術の書がある。それと小夜ちゃんを天秤にかけるのさ。天秤っつっても重さを量るやつじゃねえぜ。まぁ、それについては向こうに着いてから詳しく話すが。とりあえず、これだけは言っておく」
師匠は真面目な顔で小夜を見た。
小夜は思わず身構えてしまう。
「もし、朱里が小夜ちゃんでなく宝を選んだ場合、小夜ちゃんは死ぬ」
「え…」
「やめたいならやめればいい。だけどな、これが朱里の気持ちが分かる一番手っ取り早い方法なんだ。どうする?」
師匠に訊かれて、小夜は自身に問う。
どうする?やめる?
死んでまでこんなことをする必要なんてない。
こんな危ない橋を渡るようなこと。
しかしそれに反して小夜は深くうなずいていた。
「やります」
体の奥にふつふつと湧き上がるものがある。
それは収まることを知らない。どんどん体中を侵食していくのだ。
その中にあると、不思議なことに死さえも怖くはない。
ただ唯一、怖いのは――。