食事が終わると話が花を咲かせた。

今までどこでどうやって生活してきたのかとか、どんな町があったかとか、ほとんどは師匠たちからの質問攻めだ。
朱里は一つ一つに答えを返していく。

そしてまた師匠が訊いてきた。

「宝物は見つけたか?」

「当ったり前じゃねえか。俺だってトレジャーハンターだぜ?宝の一つや二つ、手に入れらんねえでどうすんだよ」

「違う違う。お前の宝物は見つけたのかって言ってるんだよ。俺たちと別れるとき、お前が言ったんだろ?俺だけの宝物を絶対に見つけるんだ、って」

ああ、それか…と朱里は呟く。

俺だけの宝物。

無意識のうちに目が小夜を探していた。
小夜は朱里と目が合うと、にこっと微笑む。

急に気恥ずかしくなって朱里は目を逸らしたが、師匠はそれをしっかり見ていたようでニヤリと笑うと言った。

「ふーん。小夜ちゃんか」

「なっ…!!」

すごい勢いで顔が熱くなるのを朱里は感じた。きっと顔は真っ赤になっていることだろう。

混乱した朱里は慌てて叫んだ。

「馬鹿なこと言うんじゃねえっ!!」

そのまま席を立って食堂から走り去っていく。

その後ろ姿を眺めながら、師匠とジライはくっくと笑った。

「単純な奴だなぁ、ほんとに」

「あれが朱里のいいところだからね…」

二人は違うところを見ていたので気づかなかった。

小夜が切なそうな顔で、宙を見つめているのを――。


****



ベッドの上に寝っ転がってぼんやりしていた朱里は、窓の向こうに見慣れた顔を見つけて飛び起きた。

「あいつ何してんだ」

薄暗い夜の道を小夜が一人、うつむいて歩いている。

朱里は慌てて部屋を出ると小夜の後を追った。




夜は昼より幾分か涼しく、時折さわやかな風が朱里の頬を撫でていく。

小夜の姿はすぐに見つけることができた。
駆け寄って声をかける。

「小夜っ、こんな所で何してんだよ」

一瞬びくっと肩を揺らして小夜は後ろを振り返った。その顔はどことなく緊張していた。

「…小夜?どうかしたのか」

顔をのぞき込んでくる朱里の視線から逃げるように、小夜はうつむく。

「ちょっと外をお散歩していただけですから」

そんな小夜に朱里は首をかしげながらも、

「そっか。じゃあ戻ろうぜ」

小夜の腕を掴んで歩き出そうとする。

しかし実際は腕に触れることもできなかった。
小夜がぱっと手を後ろに隠したからだ。


「小夜…?」

うつむいた小夜の前髪を風がさらさらと揺らす。

「…私、まだ外にいますから、お先に戻っていらしてください。すぐに私も戻りますので」

「そんなことできねえよ。こんな夜遅くに女が一人でいるなんて危ねえんだぞ。俺も付き合うよ」

言われて朱里を見上げる小夜の顔は、悲しそうだった。
なぜこんな表情を浮かべているのか朱里には分からなかった。

声をかけようとする前に小夜が宿に向かって歩き出す。

「やっぱりもう戻りましょう。暗いですし」

朱里はしばらくの間、そんな小夜の後ろ姿を見つめていた。

小夜はもう、後ろを振り返らなかった。




自分の横を歩く朱里を感じながら、小夜は急ぎ足で歩く。

彼女は恐れていた。
朱里に触れてしまうことを。

もうこれ以上嫌がられたくない。
嫌われたくない。
そんな思いが小夜から笑顔を消す。


自分はもう朱里の宝物ではないのだ、と思うと胸が痛くなった。
目じりに浮かんだ涙を、朱里に気づかれないようそっと拭った。

でも、どうして彼はこんな自分を迎えに来てくれたのだろう?
その彼の優しさが今はこんなに辛い。

もう優しくしてほしくなかった。




部屋の戻ると子供たちが笑顔で出迎えてくれた。

小夜は嬉しかったのに、笑うことができなかった。
微笑みの代わりに涙が一粒こぼれ落ちた。




明らかに避けられている。

朱里はベッドに座ったまま物憂げにため息をついた。

部屋の中は灯りを消しているので暗い。そのせいか窓から見える月がいっそう明るく感じられた。

どうして避けられているんだろう。

先ほど手を伸ばしたときは慌てて腕を引っ込められ、ほとんど視線も合わせようとしない。

こんな小夜は初めてだった。
あの人なつこく、笑顔の絶えない彼女はどこにいったのだろうか。


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