食事が終わると話が花を咲かせた。
今までどこでどうやって生活してきたのかとか、どんな町があったかとか、ほとんどは師匠たちからの質問攻めだ。
朱里は一つ一つに答えを返していく。
そしてまた師匠が訊いてきた。
「宝物は見つけたか?」
「当ったり前じゃねえか。俺だってトレジャーハンターだぜ?宝の一つや二つ、手に入れらんねえでどうすんだよ」
「違う違う。お前の宝物は見つけたのかって言ってるんだよ。俺たちと別れるとき、お前が言ったんだろ?俺だけの宝物を絶対に見つけるんだ、って」
ああ、それか…と朱里は呟く。
俺だけの宝物。
無意識のうちに目が小夜を探していた。
小夜は朱里と目が合うと、にこっと微笑む。
急に気恥ずかしくなって朱里は目を逸らしたが、師匠はそれをしっかり見ていたようでニヤリと笑うと言った。
「ふーん。小夜ちゃんか」
「なっ…!!」
すごい勢いで顔が熱くなるのを朱里は感じた。きっと顔は真っ赤になっていることだろう。
混乱した朱里は慌てて叫んだ。
「馬鹿なこと言うんじゃねえっ!!」
そのまま席を立って食堂から走り去っていく。
その後ろ姿を眺めながら、師匠とジライはくっくと笑った。
「単純な奴だなぁ、ほんとに」
「あれが朱里のいいところだからね…」
二人は違うところを見ていたので気づかなかった。
小夜が切なそうな顔で、宙を見つめているのを――。
ベッドの上に寝っ転がってぼんやりしていた朱里は、窓の向こうに見慣れた顔を見つけて飛び起きた。
「あいつ何してんだ」
薄暗い夜の道を小夜が一人、うつむいて歩いている。
朱里は慌てて部屋を出ると小夜の後を追った。
夜は昼より幾分か涼しく、時折さわやかな風が朱里の頬を撫でていく。
小夜の姿はすぐに見つけることができた。
駆け寄って声をかける。
「小夜っ、こんな所で何してんだよ」
一瞬びくっと肩を揺らして小夜は後ろを振り返った。その顔はどことなく緊張していた。
「…小夜?どうかしたのか」
顔をのぞき込んでくる朱里の視線から逃げるように、小夜はうつむく。
「ちょっと外をお散歩していただけですから」
そんな小夜に朱里は首をかしげながらも、
「そっか。じゃあ戻ろうぜ」
小夜の腕を掴んで歩き出そうとする。
しかし実際は腕に触れることもできなかった。
小夜がぱっと手を後ろに隠したからだ。
「小夜…?」
うつむいた小夜の前髪を風がさらさらと揺らす。
「…私、まだ外にいますから、お先に戻っていらしてください。すぐに私も戻りますので」
「そんなことできねえよ。こんな夜遅くに女が一人でいるなんて危ねえんだぞ。俺も付き合うよ」
言われて朱里を見上げる小夜の顔は、悲しそうだった。
なぜこんな表情を浮かべているのか朱里には分からなかった。
声をかけようとする前に小夜が宿に向かって歩き出す。
「やっぱりもう戻りましょう。暗いですし」
朱里はしばらくの間、そんな小夜の後ろ姿を見つめていた。
小夜はもう、後ろを振り返らなかった。
自分の横を歩く朱里を感じながら、小夜は急ぎ足で歩く。
彼女は恐れていた。
朱里に触れてしまうことを。
もうこれ以上嫌がられたくない。
嫌われたくない。
そんな思いが小夜から笑顔を消す。
自分はもう朱里の宝物ではないのだ、と思うと胸が痛くなった。
目じりに浮かんだ涙を、朱里に気づかれないようそっと拭った。
でも、どうして彼はこんな自分を迎えに来てくれたのだろう?
その彼の優しさが今はこんなに辛い。
もう優しくしてほしくなかった。
部屋の戻ると子供たちが笑顔で出迎えてくれた。
小夜は嬉しかったのに、笑うことができなかった。
微笑みの代わりに涙が一粒こぼれ落ちた。
明らかに避けられている。
朱里はベッドに座ったまま物憂げにため息をついた。
部屋の中は灯りを消しているので暗い。そのせいか窓から見える月がいっそう明るく感じられた。
どうして避けられているんだろう。
先ほど手を伸ばしたときは慌てて腕を引っ込められ、ほとんど視線も合わせようとしない。
こんな小夜は初めてだった。
あの人なつこく、笑顔の絶えない彼女はどこにいったのだろうか。