第3章

問 い





昼を過ぎると子供たちは外へ遊びに出てしまった。
小夜は静かな部屋に一人残された。

しばらくは、窓から外の景色を眺めて時間を潰す。しかしそれも小夜の暇を解消してはくれない。

そんなとき頭に浮かんだのが朱里だった。

朱里の部屋を訪れるべく、小夜はドアを開ける。

と、目の前に当の朱里が驚いた顔をして立っていた。


「び、びっくりさせんなよ」

どうやら彼もまた、小夜の部屋を訪れようとしていたらしい。
朱里がノックする前に突然ドアが開いてしまったので、予想外なことに驚いてしまったようだ。

「すみません、私もちょうど朱里さんのところにお邪魔しようと思っていたところで。何かご用ですか?」

小夜の愛らしい瞳にじっと見つめられて、朱里は照れたように目線を天井に移す。
そしてためらいがちに言った。

「いや…暇だし散歩にでも行こうかなーと思って…。前にお前が行きたいって言ってたろ?別に、嫌なら嫌でかまわねえけどさ」

ちらっと小夜を見ると、彼女は顔をほころばせて嬉しそうに微笑んでいた。

「行きましょうっ。今日はお天気もいいし、お散歩にはぴったりですよ」

朱里の手を引いて小夜は歩き出す。

その後ろ姿はずいぶんと楽しそうで朱里はその、自分より頭一個分低い小夜の姿を見つめて小さく笑った。




「あれ…、朱里たち出かけるみたいだよ」

窓際に佇んでいたジライは、外に見慣れた二人組を見つけて呟いた。
同じく暇そうにしていた師匠が窓の下を覗き込む。

見ると二人は楽しそうに歩いていた。手までつないでいる。

実際は小夜が朱里の手を引っ張っているのだが、師匠たちからは仲良く手をつないでいるように見えた。

「どこ行くんだろうなぁ」

師匠の問いに、ジライは唯一表情が分かる口元を持ち上げ、

「…デートだね」

といつもと変わらぬ口調で答えた。

確かに道を行く二人の間には、甘い空気が漂っているように見える…気がしなくもない。

とりあえず師匠はジライにうなずきを返し、それから呟いた。

「そろそろあいつに訊いてみてもいい頃だな」

隣で二人を眺めていたジライも「そうだね…」と小さく返事をした。


****



道をなかば引っ張られながら歩いている朱里は思う。
そろそろ手を離してくれないだろうかと。

通りを歩く通行人は結構な数いる。
その中を手をつないで歩くのは、勇気と度胸がいるのである。

あいにく朱里はそのようなものを持ち合わせてはいない。いや、持ってはいるが、こういう場面での勇気などは無に等しかった。

「おい、小夜」

前を人の視線など気にせず悠々と歩く小夜に、朱里は声をかけた。

「はい?どうかしましたか」

振り返った小夜に、空いたほうの手でつながれた手を指差す。

小夜は立ち止まってその手をまじまじと見るが、分からないらしく首をかしげて朱里を見返してきた。

「手がどうしましたか?お怪我などはないようですが」

朱里の手を握り直す小夜に、朱里はため息をついて答えた。

「手ぇつなぐのやめろって言ってんだよ。こんな所でそういうの、嫌なんだよ俺は」

何気なく言った言葉だった。

しかし小夜は悲しそうな顔をして手を自分の体の後ろに引っ込め、小さく微笑んだ。

「ごめんなさい。もうこんなこと、しませんから」

寂しそうな悲しそうな、何とも言えない笑顔だった。
その顔を見た朱里は慌てて言い直そうとするのだが、思うように言葉が出てこない。

こういうときって何て言えばいいんだっけ?

考えあぐねているうちに、朱里はすっかり機会を逃してしまった。


その後色々な場所を歩き回ったが、小夜はずっと元気に笑っていたので、朱里も先ほどのことは気にすることもなくなっていた。

どうやら本人も気にしていないようだ、と朱里はほっと息をついた。


****



夕方になると二人は公園に子供たちを迎えに行き、そのまま宿に戻った。
部屋にいた師匠とジライを小夜が誘い、食堂の長机に全員がそろう。

小夜の両隣は子供たちによって占領されていたので、朱里は仕方なく小夜と長男トムを挟んだ席に腰を下ろした。

小夜はすでに子供たちと楽しくおしゃべりを始めている。

どうやら今夜こそは一緒に遊んでという約束を、子供たちに取りつけられているらしい。

「なんとか頑張りますっ」

と真面目に返事をしていた。

今夜はこいつが餌食になるのかと思うと、朱里は小夜が哀れでならない。



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