「ちょっとお、サク!いくらなんでも寒すぎじゃない?あんたがこの地方は万年通して暖かいなんて言うから、あたしこんな薄着で来たのよ?見て、肩丸出しよ、丸出し!ほんと誰よ、バカンス気分で行こうなんて言った奴は」

「俺の言うことを鵜呑みにするお前が悪い!俺が今まで正しい情報掴んだことなんてあったか?ほら、ないだろ?俺、いっつもあの情報屋に嘘ばっか掴まされてんだからさぁ。その点俺は頭良いよ。自分の情報真に受けずにちゃんとジャケット持って来たもん」

やたら大声を張り上げながら入ってきた人影は、どうやら男女の二人組のようだ。

二人とも、朱里より若干年上に見える。

寒そうに肩を抱く女のほうは薄手のノースリーブシャツに、太腿の出たワインレッドのミニスカート、そして膝上まである高いヒールのロングブーツという格好だ。

その女は肩を怒らせながら、朱里たちから2席分ほど離れたテーブルに腰を下ろした。

その向かいにサクと呼ばれた男が座る。


男のほうは女とは対照的に、ジャケットにジーンズ、鮮やかな赤いストールまで巻きつけた暖かそうな格好だ。

朱里は他人事ながらに思ってしまう。

本当に頭の良い奴は、嘘の情報なんか掴まされたりしねえし、その情報を仲間に伝えるなんてこと絶対しねえだろ。


「あの方たちも旅人さんでしょうか?」

朱里がこっそり聞き耳を立てている前で、どうやら小夜も二人の会話に耳を傾けていたらしい。

興味津々というふうに小夜の瞳が輝いていた。

「言っとくけど、声かけたりすんなよ」

「だ、大丈夫ですよ。じっとしてますから」

と言いつつも、小夜がうずうずと落ち着きなく体を揺らしているのに、朱里がため息をついたときだった。


「だいたいねえ!ほんとなの、その情報?」

女が一際大きな声を上げた。
思わずそちらに目を向けてしまう。

今にもテーブルを拳で叩きそうな女の前で、男が縮こまったように身を固くしているのが見えた。

「ほんとだよ。……たぶん」

ぼそりと最後の言葉を付け足す男に、女が身を乗り出した。

「ちょっと!何よ、たぶんって!あんた、そんな曖昧な情報だけで人をこんなとこまで連れて来たりするわけ?そもそも花がどうとか、ろくな詳細も分からないじゃない。頼むからもっとしっかりしてよ」

女の言葉に、男がふて腐れるように頬を膨らませる。

おいおい、お前は幾つだよ、と言いたいところだが、朱里の考えは他所にあった。


(花…あいつ確かにそう言ったよな)


朱里はじっと二人組を見つめる。
盗み見、なんてことは頭から消えていた。

幻月花の情報を探す男女の二人組。

「…あいつらが、花を探してる奴ら…?」

無意識のうちに口に出していた。

だが決して大声を発したわけではない。あくまでも呟き程度だ。

にもかかわらず、次の瞬間男女の視線は一斉に朱里のほうに注がれていた。


一瞬目が合ってしまった後で、朱里は慌てて視線を逸らす。

が、時すでに遅し。


「それがどうかしたのか」


すぐ横で声がしたと思ったら、いつの間にか男が朱里たちのテーブルの側に立って朱里の顔を見下ろしていた。

女もすぐ側で腕を組んで朱里を見つめている。


男女は止める間もなく、テーブルの空いた椅子に腰掛けると、朱里の顔をじっとうかがい見てきた。


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