終 章

夢の暁光





窓の外は光で満ちていた。

小春日和というのだろうか。珍しく気持ちのよい晴天に、朱里は眩しげに目を細めて床の中から空を見上げる。

結局、足の怪我は骨折でなく捻挫で済んだ。
だが完治するには結構な時間がかかりそうだ。

小夜は、頑として朱里をベッドから出してくれない。必要なことがあれば全部私がやりますから、の一点張りだ。

それほど今回のことに責任を感じているのだろう。

朱里は小夜の思うとおりにさせることにした。


だが如何せんベッドの中にいると、手持ち無沙汰を感じざるを得ない。

ほとんどの時間は小夜がいてくれるので暇も紛れるが、さすがに一人の時間はすることもない。

ベッドに半身を起こして、朱里は欠伸をかみ殺した。

今日で、下山してから早一日が経過していた。

(ここを出たら、次はどこに行くかな)

体が不自由な今、できることと言ったら思考を巡らせるくらいだ。

窓の外に広がる青空に何となく視線を向けたとき、背後で扉がノックされる音が響いた。


訪問客が誰なのかは言うまでもない。

「入れよ。開いてる」

静かに扉が開かれる。
顔を覗かせたのは小夜だった。


「お加減はいかがですか?」

「変わりないよ。暇で死にそうなだけだ」

朱里が肩をすくめてみせると、小夜が笑みをこぼして室内に入ってきた。
ベッドの傍らに椅子を寄せ、そこに腰掛ける。

「今日はいいお天気ですね」

数分前の朱里と同じように、小夜が窓の外に眩しげな視線を送った。

朱里も何気なしに空を見上げたとき。


「ひとつ、お聞きしてもいいですか?」

いつの間にか小夜の視線が朱里に移動していた。

「ああ。何だ」

「山に入った日、朱里さんがおっしゃっていた言葉…。私がいることで助かることのほうが多いって」

「ああ」

記憶がおぼろげながら浮かび上がってくる。

「あの、私はどんなところで朱里さんの助けになれているのでしょうか?」

気になって仕方ないというふうに、朱里を見つめてくる。
分かりやすい奴だ。

自分に注がれる好奇と期待の視線に、朱里は思わず笑みを漏らした。

「そんなこと聞いてどうすんだよ」

「あ…えと、少しでも自信をつけたくて」

「自信をつけてどうするわけ?」

朱里のからかい混じりの問いに、小夜が膝に置いた両手をぎゅっと握った。

ほのかに火照った頬。
光を湛えた大きな瞳が、じっと朱里を捉える。

「自信を持って朱里さんの相棒だと言えるようになりたいんです」

朱里の口から息が漏れた。


「そういうところだよ」


「え?」

「お前のそういうところが、俺の助けになってる」

「…私のこういうところ?」

朱里の言葉を鸚鵡返しして、小夜は困ったように首を傾げた。

「それは…どういうところでしょう?」

朱里が歯を見せて笑う。

「お前はそのまんまでいればいいってことだよ。無理せず自然体でいればいい」

「自然体…」

「見栄も背伸びもいらない。お前は今のままで十分、俺の立派な相棒なんだからさ」

そう答えて朱里が笑いかけると、小夜の頬にさっと赤みが差した。

「あっ、ありがとう…ございますっ」


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