改めて二組、計四人は丸いテーブルを囲うようにして席についた。
朱里の正面には綺羅が、両隣には小夜と朔夜が座る。

「さて、まずは君たちの情報から…」

口火を切った綺羅の言葉を遮って、朱里は口を開いた。

「いいや、あんたらの持ってる情報からだ」

「あら、別に順番なんてどうだっていいじゃないの」

「どうだっていいなら、あんたらから始めたって問題ないだろ?先に俺たちのカードばらして逃げられたらたまったもんじゃねえし」

二人の間に再び氷混じりの冷風が吹き荒れる。

それまで沈黙を守っていた朔夜が、耐えかねたのかついに口を開いた。

「坊主、お前なあ、そりゃ言いすぎだって。男はもう少し可愛げがあったほうがいいぞ。坊主にとっちゃキラは興味の対象外かもしんねえけど、一応これでも女なんだし、ちょっとは優しくしといてやれって。小夜ちゃんに格好いいとこ見せたいってのは分かるけどさあ」

ヘラヘラ笑いながら朱里の頭をぽんぽんと叩く朔夜。
もちろん、悪気があるわけではない。

だが、朱里と綺羅の周りの空気が殺気を帯びたのは確かだった。

「坊主じゃねえ!それに、俺はそんなつもりでこんな態度とってるわけじゃねえよ!お前のほうこそ無駄に小夜に愛想振りまくのやめろ!」

朱里が朔夜の手を払いのければ、今度は綺羅から凍てつく視線が朔夜に突き刺さる。

ただ小夜だけが「対象外?」とあどけない仕草で首を傾げていたが、それも今の朔夜にとっては救いにはならなかった。

両隣から受ける殺気立った気配に、さすがの朔夜も圧倒されたように縮こまってしまったようだった。


大人しくなった朔夜の様子に息を漏らすと、綺羅が再び口を開いた。

「分かったわ。こんなとこで押し問答してても仕方ないものね。私たちの情報から提示しましょう。サク」

突然名を呼ばれた朔夜は、一瞬びくりと反応したが、すぐに荷物の中を漁り始める。

しばらくして、テーブルの上に一枚の紙が広げられた。

「これは…?」

見たところ、何かの文献の一部のようだ。

紙の中心に、モミの木だろうか、大きな木が描かれており、その周りに所々文字が記されてある。

「幻月花について書かれた文献よ。とは言っても、たった一ページ分しかないんだけどね」

「ということは、この木が幻月花なんですか?」

紙を覗き込んで尋ねる小夜に、綺羅が「違う違う。ここをよく見て」と指を伸ばす。

綺羅が指し示した先は、木の根元だった。

「これが私たちの探してる幻月花よ」

よく見れば、そこに小さな花のようなものが一本描かれているのが分かった。

「…へえ。単体ってことか」

朱里の言葉に綺羅が大きく頷きを返す。
どうやらこれが、相手の持ちカードのうちの一枚らしい。

「そのとおり。この絵から分かることは、幻月花は群生ではなく単体で生息しているということ。そして、どうやら大きなモミの木の根元に生えてるってことね。ここに小さく書かれてるわ。この花は通常の花以上に養分を必要とする。だけど土からだけでは栄養を補いきれない。だから…」

「…他の植物から養分を得て生きている。そういうことか」

どうやら幻月花というのは、夢があるだけの存在ではないようだ。

他者に依存しなければ生きていくことさえ叶わない。
ほとんど共生しているような状態だ。


「それともうひとつ」

綺羅の声に、朱里は再び紙上に意識を戻した。

「この花の開花に、季節は影響を与えないみたいなの。年中生息しているってことよ」

「にしては、あれだけ山の中駆けずり回ったのに見つからなかったってのも、おかしな話だよなぁ」

のんびりとした口調で隣の朔夜が漏らした。

いつ注文したのか、自分だけホットミルクを美味しそうにすすっている。
自由奔放もいいところだ。

だがそんな朔夜の気まぐれの言葉が、朱里の情報を提示する良い流れを生んだのは確かだった。

「その疑問については、俺から話させてもらうよ」

話者の交代だ。
朱里は荷物から分厚い一冊の本を取り出すと、テーブルの上に置いてみせた。

「『月影の伝説と伝承』?なんか難しそうな本だな。俺こういうの苦手…」

まだページを開いてもいないうちから拒否反応を示す朔夜とは反対に、綺羅は興味深そうに本をのぞき込んでいる。

朱里は目的のページを開き、読んでみせた。


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