「分かったわ。交渉といきましょう」

綺羅がそう切り出したのは、朔夜が息を乱しながら戻ってきた後のことだった。

「ほら、ダッシュ」

食堂に姿を見せた、息も絶え絶えの朔夜に対してかけられた綺羅の容赦ない一言は、さすがの朱里も朔夜への憐れみを感じずにはいられなかった。

思わず確かめるように、側に立つ小夜をちらりと見る。

(…俺の相棒はあんなのじゃなくて良かった…)

一人こっそり胸を撫で下ろす。

“あんなの”と評された綺羅は、今にも卒倒しそうな朔夜から毛布を奪うと、肩に羽織って側の椅子に腰を下ろした。

足を組み、頬杖をつく姿は、まるでどこかの君主のようだ。

私の命令は絶対よ。
ここでは私が法なの。

今にでもそう口に出しそうだ。

ならば朔夜は、その絶対的な君主に仕える奴隷のようなものか。

朱里が二人の関係性について考えを巡らせていると、綺羅が口を開いた。

「交渉、もちろん受けるでしょう?」

挑戦的にこちらを見つめてくるが、あいにく朱里の側には交渉を承諾しても利益がない。

「いや、俺たちは俺たちでやらせてもらうから」

それは結構、と続けようとしたところで、綺羅が遮るように口を挟んできた。

「私たちの持ってる情報がいらないわけないわよね」

先ほどからなぜこうも上目線で、しかも好戦的なのか。

呆れて黙る朱里の反応を、迷っていると勘違いしたのか、綺羅が満足そうに目を細めた。

「私たちの持ってるカードと、君たちが持ってるカード。お互いのカードを合わせれば、謎は簡単に解けると思わない?」

「そうかもしれないな。でももし、あんたらの持ってるカードを、俺たちが全部持ってたとしたら?それって俺たちの損になるだけじゃねえの?」

ここから一気に、朱里は巻き返しを図る。
相手の望むとおりに話を運ばれるのは、性に合わない。

口をつぐんだ綺羅に、朱里は畳みかけるように続けた。

「それに、俺たちは別に情報には困ってないんだよ。足りない分はまた収集すればいいだけの話だし。交渉が不成立に終わって困るのは、あんたらだけだよな?」

ここぞとばかりに、不適な笑みを口元に湛えて綺羅を見下ろす。

おそらく綺羅には、朱里の言わんとしていることが分かっているのだろう。

側できょとんとしている小夜や朔夜を尻目に、綺羅は小さく唇を噛んだ。

朱里はさらにもう一押しする。

「ちなみに、俺たちはあんたらにはないカード、それも重要なカードを手にしてる。これは確かだ」

この一言が決定打になったのか、綺羅が大きく息を吐いた。

「…分かったわよ。もし君たちが持ってる情報しか私たちが持ってなかった場合は、こっちが君たちから新たに得た情報に見合う分だけ、情報料を支払わせてもらうわ」

綺羅の隣で朔夜が情けない声を漏らしたが、綺羅はじっと朱里を見据えたまま動かない。

どう、これで文句ないでしょ。
その目はそう告げていた。

「オーケー。その話乗るよ」

朱里は満足げに頷いてみせる。

結果、二組間での交渉は、朱里側にかなり有利な方向で承諾されたのだった。



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