途端に朱里は気が重くなる心地がした。

(…こんな近くに同業者。しかも狙ってる獲物も同じ…。今回は厄介なことになりそうだな。とりあえず、俺たちがトレジャーハンターだってことは黙っといたほうが良さそうだ)


朱里が言葉を選びつつ口を開こうとしたときだった。

「うわぁ、お二人もトレジャーハンターなんですか?」

一足先に小夜が口を開いていた。

小夜の言葉に綺羅と名乗った女が反応する。

「も?」

朱里が止める間もなく、小夜はこくりと頷いてみせると、

「はいっ。私たちもトレジャーハンターなんです!お仲間ですねっ」

「ばっ、小夜!」

さらに満面の笑みで小夜が付け足す。

「それに、私たちもお花を探してるんですっ」

瞬時に、朔夜と綺羅の顔色が変わるのが傍目にもよく分かった。


小夜を黙らせようと伸ばした手は、力なくテーブルの上に落ちる。

(…全部、なにもかもバレちまった…)

テーブルに立てた両腕で顔を覆う朱里に、のん気な小夜の声がかけられた。

「あれ、朱里さん?どうかなさいましたか?ご気分でも…」

あどけない顔で自分を見てくる小夜に腕を伸ばすと、朱里はその頭にぐりぐり拳を押し付けた。


「ほんとお前って奴は」

「い、痛いですっ」


ここまで話されては、もう誤魔化しようがない。

朱里は腹を決めると、朔夜と綺羅の視線を受けて口を開いた。


「こいつの言ったとおり、俺たちもあんたらと同じトレジャーハンターやってる。俺の名前は朱里、こいつは小夜。今日この谷に着いたばかりだ」

「で、君たちも幻の花を探してるってわけね」

不適に笑う綺羅に、朱里は答えに窮して押し黙る。

「沈黙ってことは、肯定してるってことよね。なるほど、よぉく分かったわ。こんな近くにライバルがいるなんて、早いうちに分かってほんと良かった」

ライバル、という言葉に小夜が慌てたように綺羅と朱里を交互に見る。

どうやら朱里の相棒は、今ようやくこの危うい状況に気付いたらしい。


綺羅は椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がると、

「サク!こんなとこでのんびり飯食ってる場合じゃないわよ!」

メニュー表を手に料理を注文しようとしていた相棒の首根っこを引っ張り上げた。

「え?え?」

強制的に襟の後ろを引かれて立たされた朔夜の姿は、まさに人に捕まえられたノラ猫のそれである。

「ほら、しゃんとして!この二人より先に幻の花を探さなきゃ!」

戸惑う朔夜をよそに一人燃え上がる綺羅は、拳を握り締めると、

「これから山の中に繰り出すより他ないわ!いざ!!」

朔夜を引きずるようにして、そのまま寒空の下に走り去っていった。



綺羅の打ち鳴らすヒールの音が遠くに消えた頃、朱里の向かいの席で呆然としていた小夜が恐る恐る朱里に顔を向けてきた。

「あ、あの、朱里さん…、もしかしなくとも私はまた…」

…やってしまいましたか?

軽く青ざめている小夜の顔がそう尋ねてくる。

朱里は息をつくと、不安そうな小夜の頭を軽くくしゃりと撫でてやった。

「バレちまったもんは仕方ない。ま、どうせ時間の問題だったろうしな。気にすんな、とりあえず食え」

「でも、私たちも急いでお花を探しに行かなきゃいけないんじゃ…」

小夜の言葉に、朱里は笑みをこぼした。

「平気平気。今夜花が見つかることは絶対ねえよ。あの二人もしばらくすりゃ、肩落として帰ってくるだろ。俺たちゃのんびり休んでようぜ」

余裕さえのぞかせる朱里の表情に、小夜はただただ首をかしげるばかりだった。


***



テラスから見上げる月は、円の大半が欠けていて今にも消えてしまいそうだ。

欄干に腕を乗せて、朱里は一人呟いた。


「あともう少しだな」


どこか遠くの山で唄うように鳴く野鳥の声が、いつまでも尾を引くように夜空に響いていた。



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