「ところで、朱里さん」

これ以上何を言われるのかと内心びくびくする朱里に、小夜が人差し指をぴんと立てて言った。

「今日はせっかくの雪ですし、お外をお散歩しに行きませんか」

「へ?」

思わず肩から力が抜けていた。

小夜からすれば、裸云々よりもこちらこそが本題なのだろう。

今朝の一件を気にしているのは朱里だけなのだと、落ち着かない様子で外を窺う小夜を見ていれば明白だった。

反応のない朱里に小夜が慌てて付け加える。

「ほら、新年ももうすぐですし、いろいろ買い出しに行かなきゃですし」

お前は雪の中を転がりたいだけだろうが、とは言わないでおく。

どういうわけか小夜は雪が積もると、犬のように新雪の上を転がってはしゃぎ回るのだ。

初めの頃は朱里も止めていたが、あまりに毎回のことなので近頃は好きにさせている。

言うが早いか、小夜は椅子にかけていたコートを素早く羽織ると、以前朱里がプレゼントした手袋を装着して、座ったままの朱里に手招きをした。

「朱里さん、早く早くっ」

朱里は大きなため息をつく。

結局のところ、昨日に引き続き夢に振り回されていたのは自分だけだったのだ。

今の小夜の頭には、おそらく今朝のことなど微塵も残ってはいないだろう。

朱里はコートと手袋を身に着けると、駆け出した小夜に続いて食堂を後にした。




外は変わらず雪が降っていて身震いするような寒さだったが、小夜は気にする様子もなく、むしろ雪化粧された町の景色に目を輝かせているようだった。

「お前は本当、いつも幸せそうでいいよな」

小夜の後ろを歩きながら、朱里は首を縮めて白い息とともに呟いた。

振り返った小夜は、満面の笑顔を朱里に向けて、

「朱里さんと一緒だから幸せなんですよ」

まるで、当然のことのように言う。

寒さに鼻まで赤く染めて無邪気に笑う顔は、夢で見たものと比べて幼さの残るものだったが、朱里の目を引いて離さなかった。

しんしんと降る雪の中、雪を踏みしめながら朱里はその小さな後ろ姿を眺める。

結局、どんな夢も空想も本物には敵わないってことだよな。

小さく笑って、顔を上げる。

昨夜までクリスマスマーケットが開かれていた広場では、早くも新年の支度が進んでいるようだった。



トレハンX'mas
夢物語のその先で -完-
19.12.24 幸



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