ベッド脇の窓辺に駆け寄った小夜が、朱里を振り返って手招きしてきた。
なんだろうと思いつつも、小夜の隣に並んで窓に顔を寄せる。
窓の向こうに広がった町は、一夜にして白銀の世界と化していた。
今も空から雪が降り続いているのが見える。
これはまだまだ積もりそうだ。
冷たい窓ガラスに鼻先をくっつけて、朱里は下界の景色に目を見張った。
「夢の中なのにリアルだな」
俺の想像力の賜物か、なんて考えていると、すぐ側で小夜が不思議そうな顔を向けてきた。
「朱里さん、夢じゃないですよ?」
「いやいや、夢だって。お前には分かんねえかもだけど」
なおも不思議そうに首を傾げた小夜は、少し何かを考えてから再び朱里に向き直った。
「朱里さん朱里さん」
「なんだよ」
突然、両頬を軽く引っ張ってくる。
「ね?ちょっとだけ痛いでしょう?」
朱里の頬を指で摘んだまま、小夜が窺うように見てきた。
確かに、少しだけ痛いような気がする。
でも、それはおかしい。
夢の中で痛みなんて感じるはずがない。
これは一体どういうことだ?
「現実ってことですよ」
朱里の顔色を読んだのだろうか。
小夜が呆気なく答えを口にした。
──現実?
いやいや。ちょっと待て。
朱里は脳内が軽く混乱をきたすのを感じて首を振った。
…ということは。
さっきまで俺が好き勝手に口走っていた相手は……現実の小夜?
心配そうにこちらを見つめる小夜の大きな瞳の中には、この世の終わりとでもいうほど情けない顔をした男が一人、ぽつんと映り込んでいた。
宿にある食堂は、朝から全てのテーブルが埋まっていた。
どの席も、昨夜までのクリスマスの名残を感じさせる朗らかな雰囲気に包まれている。
その中に一際目立つテーブルがあった。
卓上に顔を突っ伏したままうなだれる朱里と、何やら楽しそうにそれを見守る小夜のテーブルである。
「…だってさ、朝起きていきなりお前が横に寝てたら、そりゃ夢かなって思うだろ…」
昨日あんな夢見たばかりだったし、と呟く朱里に、小夜は笑ってコーヒーのマグカップを差し出した。
「すみません。昨夜は冷えましたし、せっかくのクリスマスなので一緒に寝たくなっちゃって。でも朱里さん、ずっと夢だと思ってたんですね。なんだか可愛いです」
くすりと笑う小夜の向かいでは、いまだに朱里がテーブルに顔を伏せたままでいる。
そこで小夜が思い出したように、顎に手を当てた。
「でも、昨日は一体どんな夢を見てらしたんですか?私は裸で何をしていたのでしょう?」
突っ伏したままの朱里の肩がぎくりと言わんばかりに跳ねた。
一番触れられたくない急所を突かれて、朱里はさらに身を縮こめる。
間違っても言えるわけがない。
そもそも正直に答えたところで、そういう方面にことごとく無知な小夜が、朱里の話を理解できるとも思えなかった。
そういえば、夢の中の小夜はずいぶん大人びて見えたなと考えていると、前から名前を呼ばれた。
顔を上げると、妙に顔を輝かせた小夜と視線が合う。