プロローグ





小夜という少女は、以前までは一国の王女だった。
だが、国を出て共に旅をするようになってからは、ただの少女になった。

果たして俺との旅は、彼女にとってどんな意味があったのだろうか。

今訊ねてみても、その答えは返ってこない。

もう側に彼女はいないのだから。


* * *



見上げた空はいつものように青く澄んでいた。

この森をこうして一人で歩くのは、何度目になるだろうか。
木漏れ日の続く小路をのんびり進みながら、朱里は一人苦笑いを漏らした。

「また一人に逆戻りか」

木の葉がサワサワと揺れて、朱里の頬を心地よい風がくすぐっていく。
そのとき、春風に乗って鈴のような声が耳に届いた。


──春ですね、朱里さん。ピクニックでもしてみませんか?


思わず朱里は後ろを振り返っていた。

そこには穏やかな森の景色が広がっているだけで、誰の姿もありはしない。
もちろん、自分に笑いかけてくる少女の姿もない。

本当に未練がましいな。

自嘲すると、朱里は再び森を歩き出す。

背後のマーレンの町を振り返ることは、もうなかった。




prev home next

1/178




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -