闇に沈んだ城内の廊下に、燭台の炎が揺れているのが見えた。
その炎はゆっくりと前進しているようだった。
動きに合わせて炎がゆらゆらと揺れては戻る。
そのまま無人の廊下を抜け、炎は地下に続く階段を下っていく。
石造りの床にはわずかばかりの靴音が響いていた。
一瞬その音が止まり、硬質な金属音と共に分厚い扉が開く。
奥から吹いた風に、燭台の炎が一際大きく揺らめいた。
先に伸びるのは闇よりもなお深い漆黒の闇だった。
その中を炎は躊躇いなく進んでいく。
細い通路を曲がり少し行ったところで、その動きが突然止まった。
「やあ」
誰かの声がさして広くない地下に反響する。
声の主は手に持った燭台を自分の胸の辺りにまで持ち上げた。
揺らめく炎にその顔が陰影を際立たせて浮かび上がる。
そこにいるのはトオヤだった。
冷たい薄緑色の瞳がわずかに細められ、加えて口元が引き上げられる。
「ご気分はいかがですか」
彼の前には太い鉄格子が床から天井まで伸びていた。
その奥にあるのは暗闇の中でも分かる。
牢だ。
そこに今、何かがもぞりと動く気配がした。
炎の灯りも届かない牢の奥で、その影は壁に背を預けて地べたに座っていた。
トオヤの問いに、影はうなだれていた頭をゆっくり上げると、
「──最悪だよ」
ただそれだけ吐き捨てた。