トオヤの自信に満ちた横顔を見上げて、小夜は小さく頷いた。

この人はこの一年の間ずっと、町の人たちと協力して困難を乗り越えてきた。
だからこそ大丈夫だと言えるのだ。

強い人だなと見ている前で、トオヤが付け加えるように言った。

「私も共に参りますから」

小夜に道を開けるように、トオヤが門の外へと腕を伸ばす。

その向こうに待つ人々が視界に入って、小夜は握り締めた両手を下ろし姿勢を正した。

瞼を閉じ、大きく深呼吸してゆっくり吐き出す。

再び開いた瞳を真っ直ぐ広場に向けて、小夜は足を踏み出した。





一歩進む毎に、自分に向けられる視線の数が増えていくのが分かる。

小夜が姿を現した城前広場では、決して小さくないどよめきが起きていた。

皆、久方ぶりに城に帰還した王女を目にして、口々に何か話している。

真っ直ぐに前を見据えて歩く小夜は、純白のドレスを身にまとっていた。

胸下で切り替えられたジョーゼット生地のスカートは裾が足元まで伸び、小夜が歩く度に軽やかに揺れている。

胸元にだけ金糸で刺繍が施された、非常にシンプルなデザインのドレスだ。

だが小夜が着ると、彼女の持つ柔らかな雰囲気と相まって、その可憐さに拍車がかかるようだった。

小夜を見守る群衆の中には、その美しさに目を見張る者もいた。

しかし当の本人は、他人から見た自分というものには疎く、今も緊張した面持ちで壇上に続く階段を上っている。
心の中で必死に自分を励ましながら。


壇上の中央に立った小夜に、広場中の視線が集まるのが分かった。

小夜は思わずすがるようにドレスのスカートを握り締める。

さっきから心臓の音がうるさいくらいに耳に響いていた。
口の中はカラカラだ。

壇上を下りたすぐ傍らにはトオヤが控えてくれているはずだったが、そちらに顔を向ける余裕もなかった。

人々はじっと王女の言葉を待っている。

長く息を吸って、小夜はゆっくりとその口を開いた。

「──私はこの国、マーレン国の王女小夜です。今日は皆さんに伝えたいことがあって、この場を設けさせていただきました」

自分の声が震えていないことを確認して、続ける。

「まずは亡き父に代わり、この場を借りてお礼を言わせてください。王位が不在の間、町だけでなく城も再建し、ずっと守ってきてくださったこと、本当に感謝しています」

大きく一礼すると、小夜は次の言葉を口にしようとして、しばし逡巡するように視線を落とした。

わずかな沈黙の後、再び聴衆に目を向けたその顔には、先ほどよりも色濃い緊張が浮かんでいた。

「本来なら、皆さんの先頭に立って復興に当たらなければならなかったのは、王女である私のはずでした。皆さんにとって一番辛い時期に姿を消してしまったこと…今さら謝って済むことではないと思います。でも、どうか謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

再び頭を下げた小夜に、返ってくる言葉はない。

「先のハンガル国からの攻撃で、国王であった父が亡くなり、町も、城も、全部置いて私は逃げ出しました。傷ついた皆さんを残して、一人自由になったんです。そのときは、罪悪感なんてほとんどありませんでした…」

広場は恐ろしいくらいに静まり返っていた。
小夜を見上げる人々からは何の表情も読めない。

それでも小夜は言葉を紡ぐ。
今の彼女にはそれしかできない。

「国を出て初めて目にした外の世界は、物語を読んで想像していたよりもずっと広くて、綺麗で、たくさんの人が暮らしていました。毎日、本当に信じられないくらい楽しくて、幸せで」

ふと、脳裏に彼と過ごした日々が甦った。


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