牢の格子を握り締めてアールが続ける。

「君は自分のことしか見えてない大馬鹿者だ。どうしてもっと周りを見ない。君の周りにはあんなにも君を想ってくれる人たちがいたのに…!なぜ自分が恵まれていることに気づかないんだ!」

彼が自分の感情を露わにするのは珍しいことだった。

つい先日トオヤの弟が殺されたときもそうだったが、何かあの少年に思い入れでもあるのだろうか。

ふとアールにも年の離れた弟がいたことを思い出す。先の戦争で命を落としたと聞いたが、もしかするとそれも関係あるのかもしれない。


わずかに肩を震わせながら、アールが声を絞り出した。

「…あの子は最期まで君のことを心配していた…。死にかけてる自分じゃなく、兄である君のことを最期の最期まで…!そんな愛情深い家族がいるこの世界を、どうして腐ってるなんて言えるんだ…!」

アールがロキについてきた理由がなんとなく分かった気がした。

アールはトオヤに理解させたいのだ。

お前の家族がどれほど温もりにあふれ、誇れるものだったかを。

でなければ、トオヤの弟が死んでも死にきれないから。

そして何より、アールの中でトオヤの弟の死が昇華できないから。


だがアールの必死の訴えにも、牢の奥のトオヤはうなだれたままだった。

ロキは息を吐く。

「よせ。どうせ今のこいつには理解できん」

自分の不幸に浸りきっているのは、さぞ心地がいいだろう。
自分は悪くないと、周りの環境がここまで自分を追い詰めたのだと、自慰に耽っていればいいのだから。

誰がそんな安寧を与えてやるものか。

炎の奥をじっと睨みつけて、ロキは口を開く。

トオヤを地獄に落とすための真実を突きつけてやるために。

「知っているか。お前がその手で殺した義父は、お前を城仕えにとかつてのマーレン王に願い出ていたそうだ。ほどなくお前は入城できるはずだった」

少しの沈黙の後、影が渇いた笑いを漏らした。

「どこからそんなでまかせを…」

「お前の実父から聞いた話だ。養子に出した後も、細かく連絡を取り合っていたらしい。義父から送られてきたという手紙も読んだが、確かにお前をマーレン城にと書いてあった」

再び沈黙が下りた。
かすかに「そんな馬鹿な…」というささやきが聞こえたが、おそらくロキに返事を求めて口にしたわけではないだろう。

ロキはさらに続ける。

「義父からの手紙にはこうも書かれていた。息子の夢を叶えることが、自分たち夫婦の一番の夢なのだと。お前はそんな彼らから、夢も未来もすべて奪い取ったんだ」

そこで初めてトオヤの影が立ち上がった。
隠しきれない動揺が、空気を通してこちらにも伝わってくる。

自分の犯した罪の重さを思い知ればいい。

どれだけ非道で残忍なことをしたのか、言い逃れもできないほどに。


「よく聞け。お前は身勝手な夢のために、多くの人間の命を踏みにじってきた。そんな奴が楽に命を手離せると思うな。この世界は地獄だ。お前はその地獄の中を、これからも死に物狂いで生きて苦しみ続けるんだよ」


そうでなければあまりに報われない。

自らを犠牲にして国に戻った姫も、姫を守るためロキの元を飛び出していった青年も。




prev home next

175/178




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -