涙の溜まった目で首を横に振ると、小夜はさらに強く朱里の手を握り締めた。

「…こんなの駄目…駄目ですよ…。やっと会えたんじゃないですか…。それなのに、どうしてこんなことになっちゃうんですか…」

すぐ側にいるはずなのに、こうして触れることだってできるのに、どうしてこんなに彼は遠いんだろう。

ぼやけた視界の中で横たわる朱里に顔を寄せて、小夜は必死に呼びかける。

「…朱里さんにお話したいこと、いっぱい…いっぱいあるんです。一緒に見たい景色だって、たくさん…。だから、朱里さん…お願いだから、私を置いていかないでください…」


それは届くことのない儚い願いだった。


目覚めることのない朱里の頬を、場違いに穏やかな春風がそよと撫でて通り過ぎていった。




prev home next

173/178




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -