「二人ともども罰を望むなんて滑稽ですね。この男と心中でもするおつもりですか?」

冷たい声に続いて、乾いた笑いが小夜を嘲るように落とされた。

確かめなくとも分かる。
トオヤが地面にひれ伏した小夜を見下ろして、愉快げに笑みを浮かべているに違いない。

腹に野心を抱えたトオヤからすれば、王族である小夜も、その相棒である朱里も邪魔者以外の何者でもない。
この場でまとめて処刑してしまえば、彼に異を唱える者はいなくなる。

そうなればこの国は彼の手中に収まったも同然だ。


地面についた両手を爪が食い込むほどに握り締めると、小夜はにじんだ目元を乱暴に拭ってトオヤを睨み上げた。

この場を覆すほどの言葉は何も出てこない。
けれどここで泣き寝入りしてしまえば、小夜の大事なものは何もかもこの男に奪われてしまう。

それだけは絶対に嫌だ。

トオヤに強い視線を向けたまま、小夜はゆっくり立ち上がった。

「…滑稽の何が悪いんですか?大事なものを守るためなら、体裁なんてどうだっていい。どんなに不格好で情けなくても、後悔するよりずっとましです。私はもう、何も失いたくない。朱里さんも、この国も、この町のみんなも、何一つ失いたくないから抗うんです!」

真正面からトオヤを見据えて告げる。

「あなたには何も渡さない、何も許さない!」

広場を包む空気が、小夜の言葉を受けてしんと静まり返る。

それを破ったのはトオヤの笑い声だった。

「失礼。ずいぶん傲慢なことをおっしゃるのですね。ですが、ご自分のことすら守れないそんな体で、この国をどう守っていくおつもりですか?まだ傷だって完全には癒えてないんでしょう?また同じような目に遭われる可能性だってあるのに」

トオヤの口元がいやらしく歪む。

「一人でしょい込むには荷が重いんじゃないですか。小夜様?」

そう尋ねる声音は驚くほどに優しい。

小夜の力になりたい、一人で抱え込まないでほしい。
そう告げられたときとまったく同じ声で、今度はお前には無理だと蹴落としてくる。

朱里が救いの光だとすれば、この人は混沌そのものだ。

優しさを装った言葉の触手に絡み取られてしまえば、仄暗い終わりに向かって堕ちていくだけ。

小夜の知らないところで、今までどれだけの人がこの男のために犠牲となっていったのか。

人好きのする柔和な顔で微笑むトオヤの手は、一体どれほどの人の血で染まっているのだろう。

果たしてこの人は、自分の手がどれほど汚れているか気づいているのか。いや、それすらも彼にとっては取るに足らないことなのかもしれない。

「…トオヤ、あなたにとっては自分の夢がすべてなんですね。それ以外のことはどうだっていい。だからそうやって、こんなときでも何でもない顔で笑っていられる…」

小夜を突き落とし、ライラを傷つけ、朱里の命を奪おうとする。それらのことも、トオヤにとっては夢を叶えるための過程でしかないのだ。

済んでしまえば振り返ることもない。
だからもちろん後悔もしない。

「たくさんのものを踏みにじって夢を追いかけて、その先にあなたの求める幸せは本当にあるんですか?あなたはその幸せを、しっかりと思い描くことができていますか?」

小夜の投げかけた質問に、トオヤがわずかに眉を寄せるのが見えた。

城を手に入れ、国を自分の物にし、夢を叶えたときトオヤは何を思うのだろう。

隣にも後ろにも自分以外誰もいない一人きりの世界で、これが自分の夢見た理想郷だと、心から笑えるのだろうか。

トオヤは本当に、そんなものを望んでいるのだろうか。

「…あなたは、独りぼっちで平気なんですか?」

たまらずそう尋ねていた。


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