─おまけ─
「ぶぇっくしょんっ!!」
威勢のいい大きなくしゃみが、雪の舞う町外れの森に響いた。
針葉樹林が遠方まで連なる深く濃い森だが、今は雪で白くかすんでいる。
「…ちょっと…。僕に唾をかけないでくれるかな…」
そんな人気のない森の中、小さいながらもよく響く声が聞こえた。
「あー悪い悪い」
ずずっと鼻をすする音がして、
「しっかし、あいつらいつまで待たせるつもりなんだ?朝一番にここに集まるって決めたの、あいつだよなぁ」
はぁ、と息を吐き出す音は、深い森に吸い込まれ霧散する。
その続きを、先ほども聞こえたため息の儚さに似た声が紡いだ。
「…これは、間違いなくアレだね…」
「…ああ、アレだな」
そう呟く声が聞こえたきり、森は沈黙に包まれる。
そして、思い出したかのように生まれる音。
「…べぷちっ」
「…おい、ジライ。言い返すわけじゃねえがな……唾だけならまだしも、顔に鼻水かけるのはやめてくれ…」
再び、沈黙。
今年初めての雪は、まだ当分降り止みそうになかった。
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