キミが呼べば





小夜と旅を始めて、もう結構な時間経ったと思う。

お互いの嫌いな物もだいたい把握できてるし、無意識にやってる癖や仕草もよく知ってる。

だけど…。


****



「──なあ、小夜」

俺の声に、窓の外を眺めていた小夜が振り返った。

「どうしました?朱里さん」

俺の名を口にする小夜。

ここだ。
俺が気になってるのはここなんだよ。

ベッドの上で胡坐を掻いたまま、俺は口を開いた。

「いい加減、それやめねぇか?」

「それ?」

きょとんと俺の顔を見つめてくる小夜。
俺は大きく頷いた。

「俺の名前を呼ぶとき”さん“って付けるのだよ。前から気になってたんだよな。もう知り合って結構経つんだし」

「え、でも…」

小夜は俺の言葉に困ったようだった。
きっと考えたこともなかったんだろう。

「だって変じゃねえか。アールのときは呼び捨てなのに、なんで俺のときはさん付けなんだよ」

はっきり言ってしまえば、俺が気にしているのはアールのことだった。

あいつのことだけ呼び捨てなんて、無性に気に食わない。

これじゃ、あいつのほうが小夜に近いみたいじゃないか。

小夜はなおも戸惑うように、首を傾げている。


俺にはそれも気に食わなかった。

小夜のはっきりしない態度に苛立って、体を揺らしていると、小夜が躊躇うように呟いた。


「じゃあ、しゅーちゃん?」


「は?」

「しゅーちゃん!今度からはこう呼ばせていただくのでいかがでしょう!」

小夜にとってその呼び名は妙案だったらしい。

嬉しそうに手を合わせて名を連呼している。

「しゅーちゃん!朱里さんにぴったりな可愛いお名前ですっ」

「待て待て待て待て」

「どうされました?しゅーちゃん」

小夜の脳内でその名が確定されそうになっているのを、俺は慌てて手を振って制した。

「段階すっ飛ばしすぎだろ!なんで呼び捨て越えて愛称で呼ぶ!」

「だって、どうせなら可愛らしいほうが…」

「男の呼び名に可愛らしさを求めるな!俺が言いたかったのは、そういうことじゃねえんだよ」



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