「中心になっているのはこの街の若者たちなんだ。筆頭に立つ者が誰なのかははっきりしないが、他国の者の可能性もある」

「よその国の?」

朱里は思わず眉根を寄せた。

この領内だけでの反乱ならまだ規模は小さい。だがそれに他国が加担しているとなると話は別だ。事は大事に至る。
内乱に発展させて介入を狙う国があるとすれば、事態は最悪な方向へ進むだろう。

「今の段階で明らかなのは、確かにそういう集団が存在するということだけだ。まだ細部まで把握できていない中で大々的に動くことはできれば避けたい。そこで君たちに頼みなんだが」

どう考えても嫌な予感しかしない。

朱里は内心師匠とジライを呪った。
一体どこが簡単な仕事だ。ほら吹きめ。

残念なことに領主は、朱里の予想と寸分違わぬ言葉を口にした。

「どんなことでもいいんだ。その集団について調べてもらいたい」

断る。俺たちは厄介事に首を突っ込むつもりはない。

そう答えるつもりだった。
小夜が横から身を乗り出して「はい」と返すまでは。


どういうつもりなのか、小夜は妙に意気込んだ様子で領主に大きく頷きかけていた。

「この街の一大事ですもんね。お手伝いします!」

「おい」

「困ったときはお互い様ですし。ね?」

最後の問いかけは朱里に向けられたものだった。

引き受けてもいいでしょう?

大きな丸い瞳が何の悪びれもなく朱里に訴えかけてくる。

いつもの朱里であったなら小夜の頑固さに負けて渋々首を縦に振っているところだろう。だが今回は事態が事態だ。気軽に首を突っ込んでいいほど、生易しい状況ではない。それが小夜には分からないのだろうか。

小さく息をついて、朱里はじっと見つめてくる小夜から視線を外した。

「駄目だ」

「朱里さん!」

非難の声が上がる。

「どうしてですか!私たちにできることがあるのならお手伝いしましょう!このままじゃこの街は…」

小夜の言葉に聞こえないふりを装って、朱里は席を立った。

一瞬領主と目が合う。領主は申し訳なさそうに小さく笑って頭を下げた。

どこまでも領主らしくない領主だ。


「邪魔したな」

それだけ言うと朱里は振り返ることもせず部屋を後にした。



屋敷を出てからの小夜の猛攻は凄まじいものだった。

「教えてください!どうしてですか」

珍しく掴みかからんばかりに詰め寄ってくる。

なぜこんなにも必死に食い下がってくるのか。小夜自身には何の関係もないことだろうに。

「お前こそよく考えろ。簡単に請け負ってただで済む問題じゃないことくらい分かるよな。下手したら戦争に発展する状況だぞ」

小夜の瞳に暗い影が差す。

「分かっています。だからこそ止めたいんです」

感情を押し殺す固い声音。その瞳の裏側にはマーレンでの惨劇が蘇っているに違いない。
朱里でさえあのときの光景が頭に焼きついて消えないのだから。

「…とにかく」

気を取り直すために一息つく。

「駄目なものは駄目だ。この件はもう忘れろ」

それ以上の反論はなかった。うつむきがちな小夜の様子が気になるが放っておくことにした。



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