あの日以来、家の中は静寂に包まれていた。

鈴を鳴らしたような楽しげな笑い声も、鳴き声や癇癪を起こす声すら何も聞こえなくなった。


マリーの小さな体を土の下に埋めた日、惟人は村長にすべてを話した。


マリーが自分を追って湖に来たこと。
湖の下に宝が眠っていると教えたこと。

何もかも全部吐き出して、自分が犯した罪を罰してほしかった。

お前のせいで大事なマリーが死んだんだと、代わりにお前が死ねばよかったのだと、そう罵って気の済むまで殴りつけてほしい。


村長の足元に崩折れる惟人を、しかし望みどおり裁いてくれる人はいなかった。

村長もその妻も何も言わなかった。ただ静かに涙を流して悲しみに暮れるばかりだった。


マリーの亡骸を前にしても、惟人は泣くこともできない。

お前には涙を流す権利なんてないと無言のマリーに責められている気がして、惟人はただうな垂れることしかできなかった。




それからの生活はただただ辛いものだった。

誰も惟人を裁いてはくれない。
それどころか村長もその妻も、惟人に今まで以上に優しくなった。

惟人にはそれが恐ろしく、またそれ以上に辛かった。

自分の罪を自覚しているのに罰される機会のない罪人ほど虚しいものはない。




ある日の明け方、惟人は誰にも告げずに村を出た。

もう二度と戻ることはないだろうと思いながら。

図らずも朱里が去って以来、ずっと望んでいた外の世界に出ることになったのは皮肉以外の何物でもなかった。




全てを捨てて村から出てきたが、惟人の脳裏に焼き付いたままの少女の像が消えることはなかった。

誰も与えてくれなかった罰は、少女が与えてくれるようになった。

水面に横たわって無言で惟人を見つめる少女の瞳には、激しい憎悪の色が浮かんでいた。


お前のせいでみんな不幸になった。


少女の目はいつもそう告げていた。

罪の重さに潰されそうになりながら、惟人は逃げるように町を転々とした。

どうすればこの罪から解放されるのか。

いつしかそういうふうに考えるようになったとき、白亜の城がのぞむこの町にたどり着いた。




初めは活気に溢れた綺麗な町だと感じた。

だが、どこの町でもそうかもしれないが、やはりこの町にも貧富の差はあった。

スラム街では痩せた小さな子どもたちを大勢目にした。

子どもを見ると嫌でも思い出してしまう。
その度に惟人はひどい罪悪感に襲われた。

もうこの町にはいたくない。早々に旅立とう。

焦燥感をにじませて通りを歩いていたとき、惟人はそれを目にした。



見るからに金持ちそうな男と、その後ろを連れられて歩く数人の小さな子どもたち。
みんな汚れた服を身にまとっている。

あまりに違和感のある光景が気になって、惟人は彼らの後を尾行していた。


立派な屋敷に消えていく男と子どもたちの姿を視認して、どうしようかと迷っていると、背後から突然肩を掴まれた。

びくっとして振り返る。

そこには惟人ぐらいの年の少年が険しい顔をして立っていた。

「やめといたほうがいいよ」

少年は左右に首を振って続ける。

「あそこに入ったらおしまいだから」

何がおしまいなのか口を開こうとする前に、少年が惟人の手を引いてその場から逃げるように歩き出した。

先ほど屋敷に入っていった子どもたち同様、その少年もずいぶん身なりがひどい。

引かれるままについていった先は、スラム街のある小さな小屋だった。



申し分程度の小さい部屋の床に胡坐を掻くと、少年は小さく息を吐いて惟人にも座るよう促した。

もちろん椅子やソファなどはない。
惟人も少年に倣って床に腰を下ろすことにした。


惟人が落ち着いたのを確認すると、少年が口を開く。

「おれの妹はあそこに行って、そのまま帰ってこなかったんだ」


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