「小夜!怪我は!?」
師匠とジライの側で座り込む小夜の側に駆け寄ると、朱里はその細い肩を掴んで顔を覗き込んだ。
小夜がうっすらと笑みを浮かべる。
「なんとか師匠さんたちのおかげで。それに惟人さんも、私を傷つけるつもりはなかったみたいです」
言って、自分の胸元に手を添える小夜。
はだけたシャツの隙間から白い素肌が覗いているのを見て、とっさに朱里は自分のコートを小夜に被せた。
小夜が目をぱちくりさせる。
「朱里さん?」
「いいから、着とけ」
「すみません。またドジを踏んでしまいました」
申し訳なさそうに小夜がうつむく。
たまらず朱里はコートの上から小夜を抱き締めていた。
「…違う、お前は悪くない。悪いのは全部…」
歯を噛み締めて腕に力を込める。
いとも容易く折れてしまいそうなほど華奢な体。
まただ。
また自分のせいで小夜が傷ついた。
二度とあんな目には遭わせないと心に決めていたにもかかわらず。
「…ごめん。小夜、ごめん」
なんて自分は無力なのだろう。
たった一人守ることすらできないなんて。
小夜の細い肩口に顔を埋めて、朱里は「ごめん」を繰り返す。
いくら謝っても何も変わらないことは分かっている。
起こってしまった事態を取り戻すことは不可能だ。
それでも今の朱里には、謝罪の言葉を口にするしか術はないのだ。
朱里の腕の中で小夜の小さな手が背中に回された。
温かな頬がすり寄せられる。
「朱里さん、謝らないでください。私は本当に平気なんです。朱里さんの相棒はこんなことで傷ついたり挫けたりなんかしないんですよ」
体を離すと、小夜は何事もなかったかのように歯を見せて笑う。
「ほらねっ?」
俺の相棒はいつの間にこんなにも強くなったのだろう。
朱里は小夜の笑顔にぼんやりそんなことを思う。
もしかしたら俺よりもよほど強いのかもしれない。
そんなとき、すぐ隣で「ごほん!」と咳払いの声がした。
「あー…お二人さん、いい雰囲気のとこ悪いがな」
若干忘れられかけていた師匠が、居心地悪そうに頭を掻きながら口を挟む。
「そろそろここから退散しねえかな?」
言われて見ると、舞台上の役者を見守る観客のように、群衆の視線が一様に朱里たちに注がれているのだった。
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