理解すると同時に、急激な恥ずかしさに襲われる。
朱里は自分の首にしがみついてくる細い腕に視線を落とした。
小夜の反応が知りたくて、言葉に出してみる。
「…焼きもち?」
返答はない。
代わりに小夜の顔がさらに肩口に押し付けられた。
「なんだよ、馬鹿だな。そんなもん焼く必要なんてねえのに」
軽い口調で笑う朱里だが、その顔が真っ赤に染まっているのは見間違えようがない。
小夜が顔を埋めているのは、朱里にとっても幸運だった。
「はっきり言っとくけど、俺は誰かさんの世話で手いっぱいなんだよ。目離すとすぐにどっか行っちまうしな」
小夜の体を抱えなおして、朱里はまだ見えぬ宿の灯りを求めて前を見据える。
そのとき視界に、ちらりと白いものがよぎった。
足を止めて空を仰ぐ。
「あ――」
途端に今朝の小夜の言葉が脳裏に響いた。
“もし、こんな日に初雪が降ったら…”
窓から外を眺める小夜の横顔が蘇る。
“――それって小さな奇跡ですよね。きっと”
朱里は空を見上げて一人笑みをこぼした。
「…奇跡、起こったみたいだぞ」
呟く朱里の耳には小さな寝息が聞こえていた。どうやら小夜は疲れて寝入ってしまったらしい。
静かな夜に優しく降り注ぐ淡雪。
火照った朱里の頬を冷たい雪の粒がかすめていく。
「俺はさ、こうしてお前がいてくれればそれでいいんだよ。来年は一緒に初雪、見ような」
空を仰いで朱里は笑う。
聖なる夜に初めての雪。
そんな偶然を小夜は奇跡と呼んだ。
ならば自分もこの奇跡に感謝しよう。
今日という特別な日に、かけがえのない人といられる奇跡に感謝を。
「メリークリスマス、小夜」
言葉は白い息とともに空へ霧散していく。
はらはらと舞い落ちる淡雪の中、朱里は静かに帰路を進む。
肩口に乗せられた小夜の唇が、小さく言葉を形作った。
“めりーくりすます――”
淡雪はいつの間にか牡丹雪へと姿を変え、街を白く埋め尽くしていく。
きっと明日はホワイトクリスマスになるだろう。
トレハンX'mas
小さな夜の奇跡 -完-
08.12.24 幸
小さな夜の奇跡 -完-
08.12.24 幸