「小夜様の部屋で拾ったんだよ。具体的に言えば、見つけたのは小夜様なんだけどね」

「それじゃあ…」

もう中身も見てしまったのか、と続ける前にアールが軽く目前で手を振った。

「心配無用さ。小夜様はこれが何だか全然気付いてないよ。中を見る前に僕が預かったからね。もっとも、僕にはだいたいこれが何なのか見当ついてるけど」

不敵に笑うアールに対し朱里が言いよどんでいると、アールが一歩朱里に近づいた。

「だけど、いくら中身が分かってるからって、僕が代わりにこれを小夜様に渡したって仕方ないよね。やっぱりこういう物は、直接本人が手渡ししなきゃ意味ないと思うよ」

朱里の前まで来ると、アールは押し付けるように包みを返した。

朱里は自分の腕の中に収まった包みをじっと見つめる。

「…けど、あいつはこんなのもらっても喜ばねぇよ」

改めて声に出すことで、ますます自分の選んだプレゼントが無価値な物に思えて、朱里は今すぐにでも包みを投げ捨ててしまいたい衝動に駆られた。

アールの高そうなぬいぐるみや花束に比べれば、この包みの中身はゴミ屑ほどの価値もないに違いない。

「…こんな物もらったって、捨てる場所に困るだけだ…」

包みを掴む手に力を込めたときだった。


「その包みの中身の価値を決めるのは君じゃないだろ?」

アールの揺るぎない声が耳に響いた。

のろのろと顔を上げると、怒ったような顔でこちらを見つめる真剣な目と視線が交わった。

「その価値を決めるのはただ一人、それを受け取る小夜様だけだ。君がああだこうだ愚痴をこぼしてるのは勝手だけど、その間も小夜様は君が来るのをずっと待ってるんだよ。あんな形でせっかくのパーティをお開きにした君を、それでも小夜様は待ってる。もし僕が君だったら、ここは何も考えず彼女の元へ駆け出すべきところだと思うけどね」

若干責めを含んだアールの言葉に、朱里は口をつぐんでアールの背後に見える部屋の扉を見つめた。


本当にあの向こうに自分を待っている人がいるのだろうか。

こんな自分からのプレゼントを待ってくれている人が…?


押し黙っていると、アールが言葉を続けた。

「それに、小夜様にとっては、他の誰でもない君からプレゼントをもらえる、ということが大切なんじゃないのかな」

「え…?どういう意味だよそれ」

「行ってみれば分かるよ。よぉく小夜様の顔を見ててごらん。そこに答えが出てるから」

いつの間にか笑みを浮かべて、アールは奥の部屋の扉へ朱里を導くように身を引いた。

長い腕を部屋のほうへ向けて朱里を促す。

「さぁほら。とろとろしてると夜はすぐに明けちゃうよ」

朱里は恐る恐る部屋の前に立つ。
その腕に包みを抱えて。


朱里の横顔が覚悟を決めたように前を向くのを認めると、アールは静かにその場を去っていった。

直後、小夜の部屋へ続く扉がぱたんと音を立てて閉じられた。


「…やれやれ。恋敵の背中を押してやる役なんて、金輪際死んでもやりたくないね、絶対」

どこかで誰かがそう呟く声が聞こえた気がした。




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