両腕いっぱいにバラの花束とぬいぐるみを抱えて笑う小夜を見て、朱里は自分の用意した包みに目を落とした。

椅子の側にこっそりと隠された包みは、花束よりもぬいぐるみよりも小さい。
中身に至っては半分もないだろう。

しかも、大きさについてだけでない。

おそらく価格にしても、朱里の用意したプレゼントがアールのかけた金額の半分にも達していないことは自明だった。

途端に、今まで持っていた自信が何の根拠もないものなのだと朱里は気付かされた。

アールの用意した物と比べて、自分のプレゼントはなんて安っぽいんだろう。


「さあ次は朱里くんの番だよ。用意するのを忘れてたって言うのはなしだからね?」

若干からかいを含めた声音に、朱里は顔を上げることなく押し黙る。

小夜とアールの視線が自分に注がれるのが確かめなくとも分かった。

小夜はアールにもらった品を抱えて、自分からのプレゼントを待っているに違いない。

膝の上においた両拳には、無意識のうちに力がこもっていた。

「朱里くん?もしかして本当に用意してないの?」

朱里のただならぬ様子に、自分の冗談がまさか的中してしまったのか、とアールが不安げに尋ねてくる。

朱里は歯を食いしばって突如立ち上がった。


「…悪いかよ!だいたい、そんだけもらえりゃもう十分だろ!」

二人に背を向け立ち去る瞬間、視界の端に驚きで目を見開く小夜の顔が映った。

アールに名を呼ばれた気もしたが、朱里は決して振り返ることなくそのまま華やかに飾り付けられた部屋を後にしたのだった。




自室に戻りベッドに倒れこむようにうつ伏せになる。

枕に深く顔を沈めて、朱里は海の底よりも深いため息をついた。

「…何やってんだ、俺は」

最後に目にした小夜の顔が脳裏に浮かぶ。

突然の朱里の怒りに驚いて目を見張る顔。

それは決して朱里が望んでいた顔ではなかった。

ただ、笑ってほしかっただけなのに。

たったそれだけの願いが、どうしてこんな結末になってしまったのだろう。

灯りも点けず暗闇に呑み込まれた部屋の中、一人きりで聖夜を迎えることになるなんて予想さえしなかった。

急に耐え切れないほどの虚しさに襲われて、朱里は深呼吸するため仰向けになった。

狭いベッドの上で思い切り腕を伸ばすと、手先のほうは宙に投げ出される格好となる。

そんな折、ふいに疑問が頭をよぎった。


――そういえば、あれはどこにやったっけ?

ベッドの上でいくら手を動かしても、目的の物は見つからない。

さっきまでの自分の行動を溯って、朱里は思わず飛び起きた。

「……やべぇ。あいつの部屋に置いてきちまったんだ…」

暗闇の中、呆然と扉があるほうに顔を向ける。

朱里が探している物が一体何なのか、もはや言うまでもないだろう。

彼が半日を費やして見つけた小夜のためのクリスマスプレゼントの包みだ。

念のため目を凝らしてベッド下を覗き込んでみるが、当然のごとくそこには何もない。

しばらくの間、朱里は逡巡するかのように床に立ち尽くしていたが、ついに腹を決めたのか扉に駆け寄っていった。

(…どうかあの包みには気付いてませんように!)

切実な祈りを胸に秘めつつ、扉を大きく開け放つ。

その途端だった。


「――ようやく出てきたね。ふて腐れ少年くん」


驚いて横を見れば、壁に背を預ける格好で腕を組んで微笑むアールの姿があった。

その手には見覚えのある包みが提げられている。

「お、お前それっ…」

朱里の視線の先がどこに向かっているのか察したのか、アールは「ああ、これ?」と事もなげに包みを前にかざしてみせた。



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