「さて、だいぶお腹もいっぱいになってきたことだし、ここでクリスマス恒例のプレゼント交換といこうか」

食卓に並べられた料理の数々は、小一時間もするとすっかり跡形もなく綺麗に片付けられていた。

三人ともが無意識のうちに腹の辺りをさすっている。


アールが出した提案は当たり前のことといえば当たり前のことだった。

だが朱里は内心あまり面白くない。

未だに彼の頭の中には、本当なら小夜と二人だけでプレゼントも交換するはずだったのに、という思いが腰を据えていたのだ。

ちらりと横を窺い見ると、小夜は嬉しそうに笑顔の花を咲かせていた。

若干どころか相当不服ではあったものの、仕方なく朱里はアールの提案に頷かざるをえなかったのだった。




「――じゃあまずは、僕から小夜様へ」

そう言ったにもかかわらず、なぜかアールは部屋の外へ出て行く。

「あれ?アールはどこへ行ったのでしょう」

「さあ?便所じゃねぇ」

どうせならこのまま戻ってこなくても全然構わねえんだけどな。

その言葉は脳裏だけに留めておく。


小夜はそわそわとアールの帰りを待っているようだ。

わずかに期待をはらませて頬を上気させる小夜の横顔が無性に気に食わなくて、朱里はアールの出ていった扉を睨みつけた。

「…あいつがこのまま戻ってこなかったらどうする?」

扉に視線を注いだまま小夜に尋ねる。

返答は間を置かずすぐに戻ってきた。

「そんなこと絶対ないですよ。アールは戻ってきます」

その即答が益々朱里の眉間にしわを寄せる。

朱里は「あっそ」と返したまま、無言を保った。


それからわずかの後、朱里の願いも虚しく部屋の扉が開かれた。

「ごめん。ちょっと待たせちゃったね」

扉の向こう側からひょこっとアールの顔がのぞき、彼は後ろ手で中に入ってきた。

背後に何を隠しているのかは、朱里も小夜も簡単に予想できるだろう。

アールは小夜が座っている席の側まで行くと、

「それじゃあ改めて、僕から小夜様へのクリスマスプレゼントだよ」

はい、と小夜の眼前に差し出されたのは、バラの花束だった。

ざっと50本はあるだろうか、真っ赤に色づいた大輪のバラがアールの右手の中で咲き誇っていた。

「うわあ、すごいです!すごく綺麗ですっ!」

「昔からずっと思ってたんだ。小夜様がいつか綺麗な大人の女性に成長したときには、真っ赤なバラの花束を贈ろうって。夢がひとつ叶ってよかったよ」

バラの花束を間に微笑みあう二人は、それこそまるで恋人同士のようだ。

小夜はそっと花束を受け取ると、香りを楽しむかのようにバラの一つに顔を寄せた。

その隣の席で見るからに不機嫌そうな表情を浮かべている朱里には、気付く様子もない。

「アール、こんなに素敵なプレゼントをありがとうございます」

小夜が再び花からアールへ視線を移したときだった。

「それともう一つ、これもプレゼントだよ」

今まで後ろに回されたままだったアールの左手が前に差し出された。

そこに掲げられているのは。


「わっ、可愛いですっ!」

普段よりワントーン調子の上がった小夜の声に、朱里はそっぽを向いていた視線を思わずそちらに向ける。

アールの手から小夜が受け取ろうとしているのは、首に大きなリボンを巻いた熊のぬいぐるみだった。

(…なんだよ。あれなら俺だって候補に挙がってたさ。べっつに大したもんじゃねえ)

だが朱里の思いとは裏腹に、そのぬいぐるみがいかに高価であるかを目は確かに捉えていた。

朱里が選ぼうとしていた品とは毛並みが全く違う。

アールの選んだ品のほうが明らかに抱き心地が良さそうだ。

現に小夜は至福の表情を浮かべて、そのぬいぐるみに頬を寄せている。



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