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無情にも暗くなっていく空を小夜が眺めていると、背後にノックの音が響いた。

急いで部屋の扉へ駆け寄る。

「やっと帰ってこられたんですねっ…」

今にもこぼれんばかりの笑顔で小夜は扉を開け放った。


しかしそこに立っていたのは、小夜の待ち人ではなかった。

「やあ。久しぶりに小夜様の可愛い笑顔が見られて嬉しいよ」

紳士的な優しい微笑みを湛えて小夜を見下ろしていたのは、ずっと以前再会して再び別れたはずのアールだった。

「えっ?あ、アール?どうして?」

突然の訪問に唖然とする小夜ににっこり笑顔を向けて、アールが言い放つ。

「今日はイブだもの。どうせなら大切な人と過ごしたいからね」


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すっかり日も暮れて街灯に照らされた石造りの道を、朱里は一人駆けていた。

「やっべえ!もう夜になっちまった…!」

周囲に人の姿はない。
皆各々の家に戻り、今は祝いの真っ最中なのであろう。

煌々と灯る家々の明かりを横目に、朱里も小夜の待つ宿へと急ぐ。

その手には綺麗に包装されリボンが巻かれた包みがしっかと抱えられていた。

宿を目指して足を速めながら、朱里はちらと脇に抱えた包みを見た。

(…これなら喜んでくれるかな、あいつ)

若干頬が上気しているのは、走っているせいばかりではない。

数分前まで彼は、先ほどの雑貨屋で店主の老爺と共にプレゼント探しに躍起になっていた。

妥協は許されない。
とにかくこれだ、と思う物を見つけ出すまでが至難の業だった。

今抱えている包みの中身は、店主が店の奥からわざわざ取り出してきてくれた品だ。

相手が喜ぶ物で、さらに言えば実用的なほうがいい、という朱里の示した条件に見事ぴったり当てはまる代物だった。

それを見た瞬間朱里は、即座に首を縦に振ったのだった。


宿まではあと少しだ。
あともう少しで、小夜にこれを渡せる。

朱里は息が上がるのも気にすることなく、ひたすら全速力で無人の通りを駆け抜けていった。




宿の入口を通り抜け廊下を少し進むと、賑やかな喧騒が聞こえてくる。

右に顔を向ければ人のにぎわう食堂が視界に入った。

おそらく大半は自分と同じ旅人だろう。

若干薄汚れた衣服を身にまとっているものの、丸い机を囲って杯を交わす表情は至福に満ち溢れていた。

大抵の机の上には今日限りの特別メニューだろうか、鶏の丸焼きが大皿にどっしりと構えている。

まさに幸せな時間を満喫している彼らの姿を眺めながら、朱里が客室へと続く階段に足をかけようとしたときだった。


「あっ、朱里さん!」

階段上から自分の名を呼ぶ声がした。

見上げれば笑顔で駆け下りてくる小夜の姿。

その、さも自分を待っていたという風な嬉しそうな表情に、朱里も思わず頬を緩めてしまう。

「おかえりなさいですっ!」

「ああ、ただいま」

内心慌てて背中に隠したプレゼントだが、小夜はまったく気付く様子もなく、朱里の側に降り立つと黒目がちの大きな目に光を湛えて朱里を見上げてきた。

「朱里さんっ、これからちょっと私の部屋に来てくださいませんか?」

「は?お前の部屋?」

「はいっ!びっくりすることがあるんですっ」

「びっくりって…?」

「それは見てのお楽しみですっ!」

クエスチョンマークを浮かべた朱里にそれ以上の説明はなく、早く早くというふうに小夜が朱里の腕を軽く引っ張ってきた。

なんだかとても嬉しそうだ。

笑顔がこぼれるその横顔を眺めながら、朱里はとりあえず小夜に引かれて二階へと続く階段を上っていったのだった。




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