小夜を見つめる朱里に、彼女はその両手を伸ばした。
朱里の鼻に甘い香りが届く。
「……それに、私は朱里さんの宝物ですから──」
言って彼女は朱里に体を預けた。
心地いいその重さに、朱里も無意識に小夜の柔らかい体を抱きとめる。
二人は互いの体の温もりを感じながら笑い合った。
道を歩きながら朱里は周りを見渡した。この辺りには家々も多い。
「しかしいつまでも、こんなことしてるわけにはいかないよな」
それを聞いていた小夜はしばし考えるような仕草をして、
「じゃあお家を建てましょう。二人だけのお家をつくって、そこで暮らすんですっ」
名案とばかりに言い放った。
「く、暮らすって…俺たちまだそんな仲じゃ…」
「そんな仲?」
首をかしげる小夜に、朱里はどもりながらも説明した。
「前にも言ったろ。好きな奴としかやっちゃいけないって…あれだよ」
周囲には人もたくさんいるのでこそっと小声で言う。
しかしそれに反して小夜は言った。
「じゃあしましょうっ。そうすれば一緒に暮らせるんでしょう?ねっ、朱里さん」
「えぇ?ちょ、ちょっと…それは」
慌てふためく朱里。
「私は朱里さんのこと大好きですよ。駄目ですか?」
小夜は妙に押しが強い。手を胸の前で組んで朱里の顔を見上げながら懇願する。
(どうすれば…なんでこいつ、こんなに常識ないんだ?…姫様だからか)
はぁー、と朱里はため息をついた。
そして空を見上げる。
今までいろいろなことがあった。
悲しいことや辛いこともあった。
小夜も様々なことを経験し、学んだだろう。
だけど。
(根本的にはあまり変わってねえんだな…)
このとき朱里は一つの教訓を得た。
人間そうそう変わるもんではない──。
さらに重いため息をひとつ。
「朱里さんっ、あっちにおいしそうなお店があります!行ってみましょう」
そんな朱里の手を引いて小夜は走り出す。
「お、おいっ…」
「はい?」
満面の笑みで小夜は朱里を振り返った。
それを見て朱里は吹き出す。
「そんなに食べてえのかよ、食い意地張ってんなあ」
そして思う。
(こいつは今のまま変わんないでいるのが一番か)
気持ちのいい空の下、二人は駆け出す。
明るく楽しいだろう、未来へ向かってまっすぐに――。
The Treasure Hunter
宝を狩る者 -完-
06.8.7 幸
宝を狩る者 -完-
06.8.7 幸