小夜を見つめる朱里に、彼女はその両手を伸ばした。
朱里の鼻に甘い香りが届く。


「……それに、私は朱里さんの宝物ですから──」

言って彼女は朱里に体を預けた。

心地いいその重さに、朱里も無意識に小夜の柔らかい体を抱きとめる。

二人は互いの体の温もりを感じながら笑い合った。


* * * *


道を歩きながら朱里は周りを見渡した。この辺りには家々も多い。

「しかしいつまでも、こんなことしてるわけにはいかないよな」

それを聞いていた小夜はしばし考えるような仕草をして、

「じゃあお家を建てましょう。二人だけのお家をつくって、そこで暮らすんですっ」

名案とばかりに言い放った。

「く、暮らすって…俺たちまだそんな仲じゃ…」

「そんな仲?」

首をかしげる小夜に、朱里はどもりながらも説明した。

「前にも言ったろ。好きな奴としかやっちゃいけないって…あれだよ」

周囲には人もたくさんいるのでこそっと小声で言う。
しかしそれに反して小夜は言った。

「じゃあしましょうっ。そうすれば一緒に暮らせるんでしょう?ねっ、朱里さん」

「えぇ?ちょ、ちょっと…それは」

慌てふためく朱里。

「私は朱里さんのこと大好きですよ。駄目ですか?」

小夜は妙に押しが強い。手を胸の前で組んで朱里の顔を見上げながら懇願する。

(どうすれば…なんでこいつ、こんなに常識ないんだ?…姫様だからか)

はぁー、と朱里はため息をついた。
そして空を見上げる。


今までいろいろなことがあった。
悲しいことや辛いこともあった。

小夜も様々なことを経験し、学んだだろう。

だけど。


(根本的にはあまり変わってねえんだな…)


このとき朱里は一つの教訓を得た。


人間そうそう変わるもんではない──。


さらに重いため息をひとつ。

「朱里さんっ、あっちにおいしそうなお店があります!行ってみましょう」

そんな朱里の手を引いて小夜は走り出す。

「お、おいっ…」

「はい?」

満面の笑みで小夜は朱里を振り返った。
それを見て朱里は吹き出す。

「そんなに食べてえのかよ、食い意地張ってんなあ」

そして思う。

(こいつは今のまま変わんないでいるのが一番か)



気持ちのいい空の下、二人は駆け出す。

明るく楽しいだろう、未来へ向かってまっすぐに――。




The Treasure Hunter
宝を狩る者 -完-
06.8.7 幸


prev home next

46/46




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -