自分に触れる紫音の指はとても優しい。割れ物を扱うかのようにそっと触れてくる。
小夜は上の紫音の顔を見ていたが、ふと何気なく顔を横に動かしてそれを見つけた。
小棚の上で灯りを反射して輝く花びら。
少し手を伸ばせば簡単に届く場所にある。
自分はどうして今もなお、これを大事にしているのだろう。
自分を置いて去っていった人がくれたネックレス。
捨ててしまって当然な物なのに。
もう自分には必要のない物なのに。
"…昨日の、詫び…"
そう言われて自分は何と答えただろう。
ああ、そうだ。
あのとき自分は約束したから今でも大事にずっと首につけているのだ。
だけど、きっとそれだけではない。
あの日自分は確かに捨てられた。あの人との繋がりもすべて切れた。
だが不思議なことに、このネックレスをつけていると、まだほんのわずかでもあの人と繋がっていられるような気がして──手放すなんてできない。
自分はどんなことをされてもあの人を嫌いになれはしない。
頭の中に様々な場面が思い出される。
"お前はベッドで寝ろよ。俺が床で寝るから。あー、くそっ"
文句を言いながらも自分のベッドを譲ってくれたとき。
"ほらよ。…安モンだけどな"
真っ赤になった顔を隠すように、そっぽを向いて手渡してくれたとき。
"でも、俺も悪かったよ。ごめんな…"
口では何と言っていても彼は優しかった。いつも自分を気遣ってくれていた。
"これは、本当に好きな奴とすることだ。自分の体、大切にしろよな"
枕に左頬を沈めた小夜の目からふいに涙がこぼれた。
それは目じりを伝って枕を濡らす。
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