その日、マーレン城では王女が戻ったとあって大騒ぎだった。
夜には城の中だけで小さなパーティーのようなものまで開かれた。
だが、その席にまだ王女は現れていない。王女はある一室に王といた。
「それでいいのだな、小夜」
椅子に座って王は静かに言う。
その前に立っていた王女は小さくうなずいた。
「はい…」
「それでは皆のところにも顔を出そう。皆にも報告せねばな、お前の紫音王子との式の日取りを。喜ぶであろう」
王に連れられて王女はそのまま部屋を出た。
彼女の目には光がなかった。
たださまざまな感情がその瞳の奥で渦巻いている。
パーティーの席で誰と何を話しても、王女の目に光が灯ることはなかった。
王女は自分の中の冷たい感情を知った。
もう自分は終わっているのだ。
これからどうなろうとかまわない。
それから数日後、マーレン国王女小夜と、ハンガル国王子紫音が結婚したというニュースが国中を駆け巡った。
もちろんそれは彼の耳にも入ったのである。