長い螺旋階段を上っていくと一つの部屋があり、いくつもの巨大な歯車がギシギシと音を立てて動いていた。
中は薄暗く、思っていたよりも狭い。
歯車がでかいから場所を取ってんだな、と朱里は辺りを見回す。
そして、それを見つけた。
彼はそれに近づき、ゆっくりと開く。
「つ、疲れました。尋常じゃなく疲れ、ましたっ…」
少ししてよろめきながら部屋に小夜が入ってきた。
肩で息をしながら朱里のほうを見ると、
「しゅ……朱里さん!?ななななにをっ!!」
小さな扉から朱里が外に出ようとしているところだった。
その扉の向こうは黒い空で、すでに彼の左足が扉をまたいでいる。
「早まってはいけませんーっ!!」
駆け寄った小夜が朱里の背に抱きつく。
朱里は驚いて床に倒れこんだ。もちろん小夜も一緒にだ。
「な…何すんだよお前、ちょっと今やばかったぞ!バランス崩して落ちそうになったじゃねえか!!いきなり抱きついてくんなっ」
起き上がりながら叫ぶ。
朱里の今の心拍数はかなり上昇していることだろう。
「危ないです、朱里さんっ!落ちてしまったらどうするんですか!?あんな危ないことをしては駄目ですっ!!」
朱里のほうに身を乗り出して小夜も叫んだ。
珍しく強い口調に、朱里はなぜか謝ってしまう。
「す、すまん」
「分かってくださればいいんです」
ほうっと息をつく小夜を見て朱里は我に返った。
(なに謝ってんだ、俺。危ない目に遭わせたのは間違いなくこいつなのに)
そのとき初めて、朱里は自分が押しに弱いということを知ったのだった。
それはともかくとして。
「おい。これから俺行ってくるけど、お前はそこにいろよ」
荷物の中からロープを取り出し、それを自分の体に結びつけながら、朱里が床の上に座り込んでいる小夜に声をかけた。
「え?行くとはどこにですか?」
小夜が朱里を見上げる。
「決まってんだろ。外にだよ」
もう一方のロープの端を歯車の側の柱にしっかり結びつけると、彼は開いたままになっていた扉の上に再びまたがった。
「朱里さん、危ないですっ」
立ち上がろうとする小夜を手で制する。
「危ないのはお前だ。さっき動くなって言っただろうが。お前が動くとろくなことがねえ…。いいか、絶対動くなよ」
「で、でも」
「お前言ったよな。足でまといになるようなことはしないって。少しでも動いたら城に追い返すからな」
一方的に言うと、朱里は扉の向こうに姿を消した。
後には漆黒の闇が覗いているだけだ。
「朱里…さん」
薄暗い部屋の中、小夜が小さく呟いた。
その声は不安そうで、悲しそうな色を帯びている。
座り込んだ彼女の長い髪が、開け放たれた扉からの冷たい風にふわり、と舞った。
風が強い。
吹くたびにロープが揺れてしまってなかなか安定しない。
苛立ちを感じながら、朱里は時計盤をゆっくりと下りていた。
ライトアップされているおかげで周囲はよく見えるが、これは少し明るすぎではないだろうか。眩しすぎて目を細めなければならない。
「くっそー。少しは盗む奴のことも考えろよな。ライトアップすりゃいいってもんじゃねえだろうが。あー、目が痛え」
ただでさえ周りは金銀と光る物ばかりなのだ。それにライトが反射して時折朱里の目に光が突き刺さる。
「目がぐりぐりするー…」
そんなことを繰り返しながら下りていた朱里であったが、目的の物を見つけたのか、ある地点で下降をやめる。
そこはちょうど、時計盤の中心──針が交わるところであった。
「よし。情報に間違いなし。こりゃすげえなー、周りの金なんか目じゃねえぜ。初めて見たよ、こんなでかいオリハルコン」
そこには30センチはあるだろうオリハルコンの塊が光を受けて光っていた。
このオリハルコンとは、錬金術によって作り出された金属で、希少価値はかなり高い。
しかもこの大きさだ、売ればいくらになるだろうか。
想像すると朱里は身震いした。久々に手ごたえのある大物だ。
慎重に道具を動かしてオリハルコンを留めている金具を一つずつ外していく。
全6ヵ所を外すと、簡単にそれは朱里の手の中に収まった。
しかし。
「うおっ!?」
想像以上の重さに危うく落としてしまいそうになるのをなんとかこらえる。
「重てぇー!なんだこれ、いったい何キロあるんだよ」