第3章

オウリスの夜の話





「この町、オウリスの時計台は中世の時代に造られたもので、高さは50メートルにも及ぶ。その中でも時計盤は金銀をふんだんに使って造られたものだから、金額に直すと余裕で億は超すだろう。今回ターゲットをその時計盤にしぼったわけだが……おい、聞いてんのか?」

「えっ…あ、はい。そうですね、いい天気です」

「…聞いてないならはっきりそう言え。誰が天気の話なんてしたんだよ」


朱里と小夜の二人は現在"オウリス"という町を訪れていた。

ちょうど時計台がある中央通りを歩いているところだ。

「すみません。でもどうやってあんなに大きな物を盗…んぐっ」

言いかけた小夜の口を朱里が慌てて手でふさぐ。そして小声で言う。

「馬鹿っ、周りに人いっぱいいるんだから注意して話せ。いつ誰が聞いてるか分かんねえんだぞ」

「うぐうぐ…ぷはぁ!すみません朱里さん。今度からは気をつけま…あてっ」

人にぶつかってよろめく小夜を横目に見て、朱里ははぁーとため息をついた。

「…宿屋探すぞ」


****


「――部屋をふたつ」

フロントで鍵を受け取ると、朱里は後ろでぼーっとしていた小夜にその一つを渡した。

「いいか。この鍵はなくすなよ。部屋に入れなくなるからな」

「あ、はい。でもどうして別々の部屋になさるんですか?」

小夜が渡された鍵を見つめて首をかしげる。

「あのな…お前もう忘れたのか?昨夜ベッドが一つしかないからって、お前にそれ譲って俺は床で寝ただろうが。今夜はちゃんとしたところで寝たいんだ。分かったな」

小夜がうなずくのを確認してから、朱里は部屋がある二階へと上がった。

どうやら部屋は廊下の一番奥のようだ。鍵を差し込んでドアを開ける。

(あー、なんかまだ昼にもなってないのにすげぇ疲れた。これから俺、もっと疲れることになるんだろうな。なんか、めんどくせぇ)

ベッドに横になって目を閉じた。

今までの出来事を初めから振り返ってみる。


まずは、城の中でピンチになって小夜に助けてもらったこと。

(あれはまあ、感謝してるけど。その後がなあ…)

それから自分を追いかけてきた小夜のこと。

(すべては間違いだったんだ。ちょっと可愛いからって同情しちまって。なんで俺、あのとき助けちまったんだろう。ほっときゃよかったのに…あーもう)

自分の後先考えなかった行動に腹が立つ。

ごろんと横を向いた朱里は目をぱちっと開けた。

目の前には小夜のドアップ。

「うわああああっ!?」

慌てて起き上がり、ベッドの端に後退さる。

「なっ、ななななんなんだよ、お前は!!いるならいるって言えよ!ビビっただろうが」

そんな小夜はベッドの側にしゃがみこんだまま、にこにこと笑っていた。なんだか嬉しそうだ。

「…なんだよ。なに笑ってんだ」

「いえ。あまりにも朱里さんの寝顔が可愛らしかったもので、ついこちらまで」

それを聞いて朱里は眉を寄せた。

「可愛らしいって…17歳の俺が言われても嬉しくねえんだけど。どっちかって言うと、なんか悲しくなるぞ」

「え?」

目をぱちくりとさせ、小夜が朱里のほうに顔を近づけてくる。

「な、なんだよ」

(また、おはようのキスか?)

手を顔の前に突き出してガードしながら朱里は尋ねた。

「…朱里さんって、私よりも年上なんですか?」

「へ?」

「私てっきり年下の方なのかと。でも、すごく可愛らしい目をしていらっしゃいますよね。とっても素敵です」

その言葉に、朱里はがくっとうなだれてしまった。

「朱里さん?どうかなさいましたか!?」

(全部…、全部この目が悪いんだ。必要以上にでかいから…。くそぅ)

「朱里さんーっ?」

こうして、二人の昼は過ぎていったのであった。


*****


そして日も暮れた黄昏時。

朱里と小夜は部屋で早めの夕食を摂っていた。もう窓の向こうは茜色に染まっている。

「おいしいですねっ」

小夜は魚のソテーをフォークで刺しながら朱里に話しかけた。

その向かいに座っている当の朱里はじと目で小夜を見ている。

「つうか、なんでお前俺の部屋で食べてんの?自分の部屋で食えよ、部屋代もったいねえだろ。ったく、一人でのんびり食いたかったのに」

言いながらサラダに付いていたトマトを口に運ぶ。


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