「分かった。どうしてもって言うなら、お前にチャンスをやる」

その言葉に小夜が顔を上げる。

「本当ですか!泥棒さんっ」

「ああ、ただし簡単じゃねえからな。いいか、お前はこれからすぐ城に戻って、最近東国から送られてきた貢ぎ物を盗んでくるんだ。成功したら俺の仲間として認めてやる」

「それができたら一緒について行ってもいいんですね。分かりました!私、行ってきます」

言うが早いかさっそく立ち上がった小夜は、にこっと朱里に微笑んで言った。

「泥棒さんが私に与えてくださったチャンスを無駄にはしません!頑張りますから、お仲間になったときはよろしくお願いしますね」

「あ、ああ」

少し面食らいながらも、小夜が部屋を出ていくのを見届けると朱里も急いで荷物の整理を始める。

(仲間になったときはよろしく、だって?あの女、馬鹿じゃねえのか。そう簡単にとろそうなお姫さんが持ち出せるわけねえだろ。結局は、城に無理やり戻されるのがオチだ)

それにそのほうがいい。

外では明日の自分の生活が保障されない。
だからこそ朱里は、宝を盗んで金にするトレジャーハンターとして今を生活しているのだから。



荷物を手に宿を出る。

明日の朝までのんびりとベッドの中で過ごしてもいいのだが、

(あいつが城の誰かに俺のことを漏らす可能性は十分あるからな。早めにこの町を出といたほうがいいだろう)

と、結論を出したのだった。


夜の通りを歩く朱里の顔を風がくすぐっていった。春にしては少し冷たいくらいだ。

ふと暗闇の中、城のある方向を振り向いてみた。
そろそろ着いた頃だろうかと考えたところで、首を振って足を速める。

(何を気にしてんだ。あいつと俺は別に何の関係もない他人だろうが)

言い聞かせるも、脳裏に浮かんだ小夜の顔は消えてくれない。

前に伸びた通りは人気もなく、しんと静まり返っていた。

(…無事に城に戻れてるよな)

考えれば考えるほど、どんどん悪い方向に妄想は膨らんでいく。

自分に組み敷かれてなお、きょとんとした顔でされるがままの小夜の姿を思い出したところで、ついに朱里は足を止めていた。

城の方角をちらりと見やって、一目散に駆け出していく。

(確かめるだけ…!ただそれだけだ)


****



しばらくして城に辿り着いた朱里は、解錠されたままのテラスの窓から小夜の部屋に侵入していた。

そこで首をかしげる。

(…あれ?さっきの香の匂いがしねえな)

そう思って周囲を見回したときだった。


「離してくださいっ!」


まさかと思った朱里は、部屋の扉をうっすら開けて隙間から廊下を覗き見た。

案の定、一人の少女が二人の警備員に腕を掴まれて抵抗していた。

その少女とはもちろん、張り切って宿を出ていった小夜である。


(やっぱり捕まったか。でも城には戻れてたんだな)

ほっと朱里が胸を撫で下ろしたとき、小夜が警備員の手を振り払って走り出した。

こちらに向かってくる。


(げっ!やべっ)

音を立てないよう扉を閉め、急いで以前も隠れたことのあるクローゼットに潜る。

息を殺して隙間から部屋の中をうかがっていると、扉が大きな音とともに開かれた。
小夜が駆け込んでくる。

慌てた様子で扉を閉めた小夜は、そのままノブを掴んで立てこもるようだった。

外からドンドンと扉を叩く音が響く。

「小夜様、お開けください!小夜様!」

「駄目だ。こちらから開けさせてもらおう。小夜様、失礼しますよ」

ノブを握る小夜の手に力が入った。

「お願いです!私を行かせてください!約束を守りたいんです…!」


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