さん


「うわあ。大きな観覧車だねえ」

……何でこんな奴に付いて来ちゃったんだろう。
小さい頃から「知らない人にはむやみに付いていかない」って教えられてきたのに。
はあ、とため息をついて隣を歩くNを見る。
いい年をしてアレが凄いだのコレが大きいだの騒ぐNに、周囲の大人達はそそくさと離れていく。多分私もコイツの同類に見られているのだろう。いつになく視線が痛い。
さらに、私にとって苦痛なことは。

「…ねえ、早く出よう」

無邪気にはしゃぐNに向かって声をかけるが、相変わらずのマイペースさでかわされてしまう。
どうやら町の中を一周しないと気が済まないみたいだ。
仕方なく後ろを付いていくうちに、だんだん呼吸が早くなってくる。

駄目だ。
やっぱり此処で別れよう。
これ以上は進みたくない。

「ねえ、N」
「逃げるの?」

私の心を読んだかのように、彼は言った。
その言葉に、どきりと心臓が跳ね上がる。

「なん、で…」
「さっきトモダチが教えてくれたんだ。キミの家、ここだよね」

びしっ、
目の高さにつきつけられた人差し指は、空き地をしっかりと捉えている。
私は何も答えることが出来なかった。

何で、知ってるの?
さっき出会ったばかりなのに。

「ちが…」
「あれ? *じゃない!」

否定しようとした矢先、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
違う。 違うのに。

「人違いですっ!」

相手に自分の顏を見せるまいと顏を背けてその場から逃げるように走る。
もはやNだとかポケモンと人間の関わりが切れた世界とか、そんなのどうでも良かった。

「逃げるの?」
「ひっ…!」

急に背後から投げつけられる疑問符。
一瞬ひるんだその隙に、私の手首は彼にしっかりと掴まれていた。

「それじゃ、セカイは変わらない」

帽子の下からしっかりとこちらを見つめるその瞳は何処までも澄んでいる。
純粋な、子供のような瞳。
そんな印象すら与えられるのに、何故か私はそれが怖かった。

「*、キミの家は焼けたんだよね。『ポケモン』のせいで」

言わないでほしいことを、ためらいもなく口にする。
でも、その瞳の中に悪意は見えない。
何処までも、無邪気に。

知り得た真実を口にしているだけなんだ。

もしかして私は、とんでもない人物と関わってしまったかも知れない。
目尻からこぼれ落ちる涙の冷たさを頬に感じながら、私は黙りこくって彼の目を見ていた。


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