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海の上にぽつりと浮かぶ孤島。この島全体を覆うようにして建っているひとつの城がある。
先月突如現れたその島の通称はポケモン城。話に寄ればそれまでその島を所有していた謎の研究団体から、あるトレーナーが島を買い上げたのだという。だがその城と別の場所を出入りする人影はなく、存在の噂は流れつつも誰もその実体を知らない城――
そのポケモン城の、無駄に複雑で曲がりくねった廊下を一人の少女が歩いていた。似たような形状のドアがずらりと両脇に続く中、迷いもせずにそのうちの一つをノックする。
彼女の呼びかけに答えるように、ドアは内側からすう、と開いた。

「…言われた通り連れて来たわ」

ドアには目もくれず、画面の上のモニターを睨みつけているミュウツーに、*は背後から声をかけた。その声色には、最強のポケモンに相対しているのだという緊張も恐怖も感じられない。そしてそれは、彼女がロケット団に居た頃からそうだった。
モニターから目をそらしてちらりと彼女を見る。最強の遺伝子ポケモンを堂々と利用しようとするその姿勢。そして物怖じの無い態度。はじめは酷く疑問に思えたが、今はその答えが出つつある。

「……早かったな」

「当然よ。これくらいの仕事が2時間で終わらなくてロケット団ボスの秘書は出来ないわ」

そう言って*は、手に持っていた袋を床に下ろした。念力で固く縛られた口を解き、中身のモンスターボールの一つを自分の側へ引き寄せれば、中に入ったフシギダネは不安そうな表情でミュウツーを見返した。

「30種類のポケモンたちを盗めば良かったのよね。一応全部のタイプを網羅していると思うわ」

「…ふん」

本当に3時間で…否、2時間で終わらせるとは思わなかった、と半ば呆れつつ*を見る。トレーナーからポケモンを盗む。それもこちらはポケモンを一体も所持していない身で。それが、どんなに大変なことかは判っていた。だからはじめに3時間という制限時間を突きつけた時も、その鼻持ちならない態度をどうにかさせたい、ごめんなさい出来ませんでしたと言いながら跪けば良い、そう思っていたのだ。

「コピーポケモン製造機の方は」

「後少しで完成すると思うわ」

その自信げな答えに再び鼻で笑って返すと、似た類いの笑みで返して、彼女は踵を返した。
部屋を出て行ったことが気配で分かると、ミュウツーはモニタに映し出される周囲の風景に意識を集中させた。近くの島でポケモンバトルを繰り広げるトレーナーたち。
我が物顔でポケモンに命令するその姿。その中から有力そうなものを選び、招待状を送りつける。書くのはもちろん*だ。恐らくもうすぐ出来上がるコピーポケモン製造機を使えば、ポケモンたちをコピーするのは容易だろう。オリジナルはその場で「破棄」してしまえば良い。そうだ、その作業を*にやらせてみようか。

*が淹れたコーヒーという飲み物を一口飲みこむ。
苦くて熱いものが口の中に広がった。
人間たちがこんなものを好んで飲む理由が判らない。
ふん、と鼻で笑って、再びモニターに視線を集中させた。





10/10/01




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