回避日和


それからは、何体かの野生のポケモンをゴールドスプレーで倒しつつ
割と簡単に進むことが出来た。
通行の障害になるような大きな落石は無いし、運が良ければこのまま脱出できるだろう、
私もミュウツーもそう思い始めたその矢先……
私たちは、自分たちが「運が良い」類の人間ではないと思い知らされた。


はじめに異変に気がついたのはミュウツーだった。
尻尾を緊張したようにぴんと張って立ち止まる。
私のほうは訳が分からなくて、只ゴールドスプレーを構える。
余程強いポケモンが余程大量で押し寄せない限り、
とりあえずはこのスプレーで撃退できることは証明済みである。

「…ミュウツー?」

問いに返事は返ってこない。
返ってこないから、余計に不安になった…

「伏せろ!」

ミュウツーが突然叫んだ。
驚いて訳が分からない中もとりあえず体勢を低くすると同時に
何かに絡めとられて引っ張られる。
私の体が洞窟の壁に打ち付けられるのと、先ほどまで私たちがいた場所が落石の土煙の中に消えるのとは同時だった。

「うわっ、これ……」

再び洞窟全体が振動していた。
矢張りこのあたりの地盤が不安定になっているのだろうか。
壁に叩きつけられ、痛む背中を押さえながら立ち上がろうとすると、
足を思い切りミュウツーの尾に絡めとられて再び転ぶ羽目になった。

「ちょっと!何するの!」

「まだ立つな。次が来る可能性がある」

ミュウツーの言葉に一瞬自分の軽率さを恥じたが、
転んだ拍子に打ち付けた顎が、背中の痛みと相まってじんじんしてきてその気持ちも薄れてしまった。



「平気だろう」

土煙が殆ど落ち着いてきたころ、ミュウツーがようやく言った。
その言葉に立ち上がって、服についた泥を払う。

「それにしても……相当不安定になってるみたいね」

早く脱出したほうが良いらしい。
このままじゃ、洞窟全体がいつ崩れるか分かったものじゃない。
……否、案外出口はもう塞がれていたりして……

嫌な考えを、頭を振って無理矢理追い出した。

「否、この揺れは人為的なものだろう」

ミュウツーが、突然さらりと言った。
その言葉に驚きを隠せない。
人為的? 誰が、一体何のために?

「珍しいことではない。私は―」

ミュウツーが突然言葉を切った。
険しい目で私の背後を見るその視線を辿ると―

落ちてきた天井の瓦礫を挟んだその向こう側に
洞窟中のポケモンたちが集まっていた。

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