推理日和
否、ミュウツーという絶対的存在がやってくるまでは、種族同士の競り合いばかりだったのだろう。 それは、私がミュウツーを探して洞窟を歩き回っていた間に現れたポケモンたちのレベルが、皆同じ程度だったことからも伺える。 それが、ミュウツーがやってきて一変。 ミュウツーはこの洞窟に来るまで、野生のポケモンの生活を見たことが無かったと仮定するなら、種族同士の争いの事情など知らずに当然。 更にはミュウツーは同種族もいないのだから、種族間にどの程度強いつながりがあるのかも知る由が無い。
全ては私の推測でしかないが、考えれば考えるほどそうとしか思えなくなってきた。 下腹が不安で痛くなるのをこらえ、鞄をあさる。 ゴールドスプレーはあと3つ。 これで乗り切れるか……否、恐らく無理だ。 使いようを考えなくてはならない。
「ミュウツー」
返事はない。 相変わらず外の様子などまるで知らずに眠っている。 無理も無いだろう、私だってあんな重労働初めてだ。
私も眠ろうか、 そう思って隣に横になった。 ごつごつした地面が背中に当たったが、今更気になることでもない。
ゆっくりと目を閉じると、すぐに意識が薄れていった。
腹部への鈍い衝撃で目が覚めた。 覚醒しない意識を無理やり目覚めさせて上を見上げると、 紫色の何かが私の体めがけて振り下ろされるところだった。
慌てて横に転がって回避する。
「ようやく起きたか」
どうやら紫のそれはミュウツーの尾で、 彼はそれを使ってご丁寧にも私を起こそうとしていたらしい。
「素敵な目覚めをありがとう。でもそんなあなたに悪いニュースがあるわ」
皮肉を無視しつつも、『悪いニュース』に興味を示したミュウツーの前に、 私は上半身を起こして座った。 そこで私が寝る前に考えたことについて話す。 脳を休めたからか、自分の考えが整理されていくのを感じていた。
私が見たポケモンたちが集まっている光景、 ミュウツーの圧倒的な強さと洞窟の王者の関係、
時折引っかかることがあるのか首を傾げることが数度あったが、 それでもミュウツーは最後まで聞いてくれた。 私が話し終わったことを確認すると、静かに口を開く。
「お前の推測は、凡そ外れてはいないだろう。 だが、仮にそうだったとして、今我々がすべきことは変わらない」
すべき、こと。 私にとってはこの洞窟を脱出すること、なのだが。 ずっと気になっていたことを、思い切って聞いてみることにした。 つまり、ミュウツーはこの洞窟を出るつもりなのか、ということだ。 私の問いかけにミュウツーは軽く頷く。この洞窟を出て、別の洞窟へ行くつもりだと言う。 確かに、一度決起した他のポケモンたちを再び従えるのは骨の折れる作業だ。 そこまでしてこの洞窟の王者になることを、ミュウツーは望んでいないのだろう。
「…とりあえず、ゴールドスプレーはまだ残ってる。 しばらくはこれで行けると思うわ」
寝る前に通ろうとした穴をのぞくと、集まっていたユンゲラーたちはどこかへ消え去っていた。
「今がチャンス、みたいね」
ささやけば背後でかすかに頷く気配がしたので、私はゴールドスプレー片手に一気に穴から外へ出た。
09/12/12
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