驚愕日和
「やっちゃった……」
目の前に立ちふさがった大小さまざまな岩は、私たちの小一時間の努力をゼロに… 否、マイナスポイントにまで引きずり込んだ。
「まったくもう…」
何やってるのよミュウツー、と言い掛けたが、 本人は顔にこそ出さないものの私よりもへこんでいそうなので黙っておくことにする。 それに、どうせ責めたところで言い返されて、最終的に喧嘩になるのがオチだ。 この極限状態で仲間割れはまずい、ということがようやく私にも分かってきたので、 此処はぐっと我慢することにする。
「……まあいいや。時間はたっぷりあるんだから、もう一回作業開始ね」
それでも言葉に自然に皮肉が混ざってしまうのは避けがたいことなのだが。 しゃがみこんで手ごろな岩を横へどかす。 そろそろ本気で疲れてきた。手も腰も足も、あちこちが痛い、というより感覚が無い。 感覚が無いのに痛みだけがある。 なんて理不尽なんだろう。
「 」
突然ミュウツーが何か呟いた。 岩にかけていた手を止めてミュウツーを見る。 と、思いのほか深刻そうな顔をしていた。
「何?」
もう一度問えば、
「…すまない」
思わずため息が出た。 たかだか侘びくらいでそんなに悲惨な顔をしないでほしい。 いや、別にミュウツーの顔の造形が悲惨ってわけじゃなくて。 まあ確かに今時人気の「ペットに出来ます」みたいな顔はしてないけど。 それにしてもあの愛くるしいミュウ―否、本物は見たこと無いけれど―からよくもこんなドラ息子みたいなのが……
「わざと、声に出しているのか」
ミュウツーの言葉に、思考を停止、もとい閉口した。
「んー、半々ってとこかな」
ほら、会話にはアクセントとちょっとしたスパイスが必要なんだよ、 と笑って再び岩に手をかけた。
「今度こそ……これで……終わり……?」
最後の瓦礫をどかし終えた頃には、私たちは既に立つ気力も無いほど疲れていた。 そもそも、ミュウツーは私のポケモンたちにギリギリまでやられていたのだ。 その上この重労働。健康体だった私がここまで疲れるほどだから、よほどの疲労度合いだろう。
と思ったら、矢張り相当なものだったようで、 ちらりと見た頃には倒れたのか眠ったのか分からないような状態で地面に伸びていた。 私も横になろうか、と地面に座りかけ……
そこで、気づいた。
既に外に通じる穴は開いている。 どのくらいの規模で地盤が崩れ、どこまで塞がっているのかは分からないが、 もしも天井が崩れたのがこの場所だけなら……
脱出、できる。
横目でちらりとミュウツーを見る。 胸がゆったりと上下しているのが確認できた。 今動いても、確実に気づかれないだろう。
それなら。
開いた穴に上体をねじ込んだ。 外の様子を確認すると、矢張りミュウツーのフラッシュの影響でこちらも水晶が輝いている。 道を見失う心配は無い。 ぐるりと外を見回し――
何か、黄色いものが視界を掠めた。 再びそこに視線を戻す、と。
「ユンゲラー……!」
しかも、一匹二匹ではない。数十匹という単位が集まっている。 遠くにいるのでかすかにしか見えないが、何匹ものユンゲラーが輪のようなものを作っているのが伺えた。
とりあえずこちらの存在がばれないように穴から上体を引っこ抜いてしゃがみこむ。 ユンゲラーたちは、集まって何かを相談していたようだった。 ……だが、野生のポケモンは徒党を組まないはず。 しかしその割には、ゴルバットたちも群れを成して入ってきた。 普通、倒すべき王者があんなに弱っていたら、「王者を倒す権利」の取り合いになるだろう。 それが勃発しなかったこと自体が不思議である。
相変わらず上下するミュウツーの胸を見つつ考える。 尾も同じ動きで上下するんだなあ、なんてどうでもいい思考が入り込んでくるのを遮断し、再びユンゲラーとゴルバットについて考えた。
今の状況、ミュウツーの話から考えられることは――
ハナダのどうくつの次の王の座は、種族単位で取り合いになっている。
09/11/30
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