交戦日和


「なんとか明かりはついた、か……」

ほっとして胸をなでおろす。
周りの水晶には、私の鞄のわざマシン「フラッシュ」を使って
ミュウツーがつけた明かりがともっている。

「こういったものがあるなら初めに言え」

「あなたが攻撃的な姿勢じゃなければ言ってた」

フラッシュならこちらを攻撃することはできない。
おまけに戦闘不能状態でも使えるし、
新しく覚えた技ならパワーポイントも満タン。
我ながら頭がいい作戦だと思う。

「後はこの瓦礫を動かすだけね」

「役立ちそうな道具は持っていないのか」

あるには、ある。
回復系の薬なら、かいふくのくすりがひとつとピーピーマックスが残っているのだ。
ポケモンの回復が間に合わず、ミュウツーに負けてしまったのかと思うと自責の念が沸いてしまう。
…と、それはともかくとして、今それをミュウツーに渡すわけにはいかない。
確実に殺されてしまうだろう。

「無い」

「役に立たないな」

はき捨てたように言われたがかまわない。
あなぬけのヒモが活躍しない今となっては、
そのほかの道具が役に立ちそうにも思えなかった。

「つまり…この撤去作業は手作業…ってとこかしら」

目の前に積みあがった瓦礫を見て、ため息がこぼれる。
と、そのとき。
突然何かが私たちの頭上すれすれのところを飛んでいった。
思わず後ずさって、瓦礫に背中がぶつかる。
見れば、何処から入ってきたのかゴルバットが数羽、狭い天井すれすれで飛んでいた。

「ゴルバット、か…」

「まずい」

一言、ミュウツーがつぶやいた。

「どうして?野生のポケモンなら、ミュウツーの仲間でしょう?」

仲間が助けに来てくれたのなら話は早いだろう。
ミュウツーにくっついて一緒に外に出してもらうまでだ。

「仲間…? 有り得ない、我々は野生のポケモンだ」

ミュウツーの言葉に首をかしげた。

「力のあるものが頂点に立ち、それ以外は従属する。
私が力を失っている今、次の頂点に立つものは……」

ゴルバットの一羽がこちらめがけて突っ込んできた。

「私を、倒す者だ」

ミュウツーの言葉が終わるか終わらないかのうちに、二羽目もこちらへ突っ込んできた。
鞄を叩きつけて応戦するが、いつの間にかゴルバットの数は増えている。
一体彼らは何処から入ってきているのか。

いずれにせよ、この状況を打開するほかに手立ては無い。

私は振り回していた鞄を手繰り寄せて、ミュウツーの影にしゃがみこんだ。
ミュウツーはといえば、尾や体を使って精一杯応戦はしているものの、
ゴルバットたちが本気を出して攻撃してくれば、一撃で倒れてしまいそうな様子だった。

「っ、何をしている」

苛々とした声が私にかかる。
しかし声をかけられた方の私も、相当焦っていた。

「ちょっと待ってよ、別に保身に走ってるわけじゃ…あ、あった!」

鞄の底から、めったに使わないという理由で忘れかけていたそれを引っ張りだした。
蓋をあけ、ミュウツーの肩ごしにゴルバットたちに噴射する。

「それは…」

「ゴールドスプレー。部屋に充満させるから、ちょっと鼻と口塞いでて」

ポケモンの嫌いな匂いがついているというその液体を、ゴルバットめがけて乱射した。
ゴールドスプレーは、こちらのポケモンが野生よりも強くないと効果が無いらしいが、
ミュウツーならその点はばっちりだ。

慌てて飛び去ってゆくゴルバットたちは、天井に近いひとつの場所に集中した。
皆が慌てて逃げようとするので、出口が詰まっている。
彼らはそこから入ってきたのだろう。

「目指すはあそこね」

最後のゴルバットがよろよろと身を通したその穴を指差して言えば、
ミュウツーは若干青い顔をして頷いた。
さてどうやって超えようかと思案を巡らせたのと同時に、ある疑問が沸いた。
ところでミュウツーは、この洞窟を出るつもりなのだろうか。
それとも、この洞窟のどこかに彼が回復できる場所があり、そこまで行こうとしているのだろうか。
後者だった場合、私の身の危険が非常に案じられる。

…彼が目的地に行くことは避けなければならない。
しかし、悲しいかな、この洞窟に関して私はまるでド素人なのだ。

襲いくる不安をかろうじて追い払い、私は脱出のための思案を再開した。




09/11/23

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