ミュウツー甘甘夢
「38.9℃……」
呻くように体温計の数字を読んで、溜息をつく。
どうやらすっかり風邪を引いてしまったみたい。
「成る程、今お前は弱っているわけだな」
いつの間に入って来たのか、ミュウツーがそんなことを言う。
その言葉に不穏な響きを感じて、私はこわごわと頷いた。
「まあ、そうね」
「つまり、抵抗は出来ない」
ふわり、と目の前から姿を消したと思った時には、ミュウツーは既に私の上に乗るような体勢でこちらを見ていた。
「乗るような」というのは、あくまでも重さを感じないからだ。
確かミュウツーはこう見えて100kg以上あったはずなので、乗られていたら窒息してしまう。
「ちょっと……、どういう……」
続きは言葉にできなかった。
唇を塞がれて息が詰まる。無呼吸状態になりながら、
「ああ、最近構ってあげていなかったから」と独り納得する。
寂しい、って、言えばいいのに。
「大丈夫。数日は風邪、治りそうにないから」
その間は家にいるわ、という言葉を飲み込んで、ようやく離れたミュウツーを見る。
彼は私のポケモンではない。いつの間にか一緒に暮らすようになって、
手持ち、というよりも、友人、というよりも――同居人、恋人だ。というか、恋人でなければキスなど許さないだろう。
「……無理が祟ったのだ」
ミュウツーは情熱的に唇を奪ったのとは正反対の冷たい声で、責めるように言う。
確かに彼の言うことも一理ある。最近は仕事で忙しくて、殆ど休暇を取っていなかった。
「分かってるけど……」
私の額に、ぽん、とミュウツーの手が乗る。ひんやりしていて、気持ちがいい。
確か初めて出会った時も、彼の冷たい手が心地よいと感じたのだった。
あの時は夜風に吹かれて冷たくなっていただけだったのだけれど。
「無理は、するな」
不意に眠気が襲って来た。おそらく彼の手がそうさせているのだろうが、抗うことが出来ないし、第一抗う理由も無い。
私は頷いてゆっくりと瞳を閉じた。
視界が段々ぼんやりしてくる。
再び額にキスが振って来たことを最後に、私の意識は途絶えた。
「行ってくるわね」
玄関から家の中に声をかける。
風邪はすっかり治った。今日からまた、シルフカンパニーで仕事だ。
「ああ。…*」
「大丈夫」
無理はしないから、と言えば、ミュウツーは口をつぐんでこちらを見た。
「世界には、人とポケモンが結婚できる国があるらしいわよ。
……今度、そこに引っ越しましょうか?」
戯れ程度に言ってみれば、ミュウツーが思ったより動揺したのが面白くて。
笑いながらドアを閉めて、私は小さく呟いた。
「……ありがと、ミュウツー」
なんだかんだで豆に面倒を見てくれそうなミュウツー
甘いってこんなんだっけ。
リクエスト、ありがとうございました。
(10/08/04)
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